
「自分にはセンスがない」。企画を考えるとき、資料のデザインを任されたとき、ブログを書こうとしたとき。そう思って手が止まった経験は、誰にでもあると思います。
オースティン・クレオンの『クリエイティブの授業』は、その思い込みを最初のページから崩しにかかる本です。原題は “Steal Like an Artist”。アーティストのように盗め、という意味です。
物騒なタイトルですが、言っていることはまっとうです。何もないところから生まれた作品はない。すべての創作は、誰かの作品を下敷きにしている。だから、まずは好きな人の仕事を真似するところから始めればいい。
ページ数は160ほどで、イラストや図も多く、1時間あれば読めます。レビューを見ても「薄くてすぐ読める」「すぐ実践に移せる」という声が目立ちます。創作の本というより、動けない人の背中を押す本です。
・自分にはセンスがないと思い込んで、何かを作ることを避けている人
・ブログや資料づくりで、真似をすることに後ろめたさを感じている人
・やりたいことはあるのに、準備が整うまで動けずにいる人
① 自分が「こういうものを作りたい」と思う作者を3人書き出す
② その3人の作品を1つずつ選び、何が好きなのかを一言で書く
③ 3人から1つずつ要素を借りて、小さなものを1つ作ってみる(ブログ1本、資料1枚、SNSの投稿1つで十分です)
④ 作ったものを誰かに見せる
④まで進めることが大事です。作って終わりにすると、この本の半分しか使っていないことになります。
1.ポイント:真似から始める創造力5つの視点
本書の10の原則は次のとおりです。
この記事では、日常で特に使いやすい1・2・3・5・9・10を、5つの視点にまとめて紹介します。
(1)オリジナルは、どこにもない
本書の出発点です。どんな作品にも元ネタがあります。音楽家は好きな曲から、作家は愛読書から、デザイナーは見てきたデザインから影響を受けています。
クレオンが区別しているのは「盗む」と「盗作」の違いです。1人から盗めば盗作になる。たくさんの人から盗めば研究になる。表面をそのまま写すのではなく、なぜそれが良いのかを理解したうえで自分の中に取り込む。それがアーティストの盗み方だと言います。
この考え方を知るだけで、だいぶ気が楽になります。真似することは恥ずかしいことではなく、創作の正規の入口なのだと。

(2)自分が何者かわかるまで待たない
自分の強みがわかってから始めよう。やりたいことが決まってから動こう。そう考えていると、たぶんいつまでも始まりません。
クレオンは逆の順番を勧めます。作っているうちに、自分が何者かわかってくる。好きな人の真似をしているうちに、どうしても真似しきれない部分が出てくる。そのズレこそが、その人の個性になる。
自分探しを終えてから作るのではなく、作ることで自分を探す。この順番の入れ替えが、本書で一番効く部分だと思います。
(3)自分が読みたい本を書く
何を作ればいいかわからないときの指針です。自分が読みたいのに、まだ世の中にない本。自分が観たいのに、まだ誰も撮っていない映画。それを作ればいい。
これはブログにもそのまま当てはまります。検索しても自分が知りたいことが書かれた記事がない。そういうときこそ、自分が書く理由があります。読者として欲しかったものは、他の誰かも欲しがっている可能性が高いからです。
(4)副業や趣味は、寄り道ではない
本業と関係ない趣味に時間を使うことに、罪悪感を持つ人は多いと思います。クレオンはそれを否定します。
一見無駄に見える寄り道が、本業に思わぬ形で効いてくる。音楽が好きなデザイナーはデザインにリズムを持ち込み、料理が好きな編集者は段取りの感覚を企画に活かす。ひとつのことだけに集中すると、かえって発想が痩せていきます。
ここは『多動力』の「掛け算」の考え方とよく似ています。違う分野をいくつ持っているかが、その人にしか作れないものを生む。
(5)退屈な生活が、作品を生む
意外な主張ですが、本書は「創造的な人は破天荒な生活をしている」というイメージを否定します。決まった時間に起きて、決まった時間に作業し、お金の管理をきちんとする。退屈なくらいの生活のほうが、作ることにエネルギーを回せる、と。
そしてもう1つ。制約は創造の敵ではない、という話も出てきます。時間がない、お金がない、道具がない。それらの制約があるからこそ、工夫が生まれる。何でもできる状態のほうが、人は何も作れなくなります。

2.必要な準備
本書『クリエイティブの授業』を読んでおくと頭に入りやすいです。
・小さなノート。クレオンは「盗んだもの」を書き留めるファイルを持てと勧めています。気になった言葉、デザイン、アイデアを集めておく場所です
・作ったものを見せる相手。SNSでも、友人でも、同僚でも構いません
読む時間はほとんど要りません。1時間で読み終わります。時間を使うべきなのは、読んだあとに手を動かすほうです。
3.参考例:真似から始めて手を動かす
例1:ブログを書きたいのに、何を書けばいいかわからないとき
創造の視点からの問いかけ
まず「読んでいて好きだと思うブログを3つ挙げると、どこか」を考えてください。そのブログの何が好きなのか。文体か、切り口か、写真か。それを書き出します。
次に「3つの好きな要素を混ぜると、どんな記事になるか」を考える。1つのブログを真似すると似せ物になりますが、3つ混ぜると、もうあなたのものです。
そして最後に「自分が検索して見つからなかった情報は何か」。それが最初の1本のテーマになります。

例2:仕事の企画で、新しいアイデアが出ないとき
創造の視点からの問いかけ
「ゼロから考えなければならない」という前提を疑ってください。まったく別の業界でうまくいっている仕組みはないか。自分の趣味の世界で当たり前にやっていることで、仕事に持ち込めるものはないか。
新しいアイデアの多くは、既存のものの新しい組み合わせです。自分の業界の中だけを見ていると、組み合わせの材料が足りなくなります。寄り道で拾った材料が、ここで効いてきます。

4.まとめ:読み終わったら、すぐ何か作る
正直に言えば、この本は物足りないと感じる人もいる本です。薄いし、理論的な裏付けがあるわけでもない。レビューでも「すぐ読める」という評価と「内容が軽い」という評価が、ほぼ同じ理由で並んでいます。
ただ、それがこの本の役割なのだと思います。分厚い創造性の理論書を読んでも、手が動かなければ意味がない。これは理論書ではなく、行動を促すための本だと思って読むのがちょうどいいです。この本は1時間で読めて、読み終わった瞬間に何か作りたくなる。その一点に特化しています。
センスがないと思っている人の多くは、実はセンスがないのではなく、真似をすることを自分に許していないだけかもしれません。好きな人の仕事を真似していい。たくさん真似すれば、それは自分のものになる。この許可を出してくれるだけでも、読む価値はあります。
読み終わったら、その日のうちに何か1つ作ってみてください。小さくていいし、下手でもいい。それが、この本の正しい使い方です。

この記事を探求できるおすすめ書籍5選
『クリエイティブを共有(シェア)!』オースティン・クレオン
『クリエイティブの授業』の続編で、テーマは「作ったものをどう世に出すか」です。1冊目が作ることへの許可をくれる本なら、こちらは見せることへの許可をくれる本。完成品だけでなく、作っている途中の過程を共有することの価値が書かれています。ブログやSNSで発信している人には、むしろこちらのほうが直接役に立つかもしれません。1冊目と同じく薄くて読みやすいので、続けて読めます。
『アイデアのつくり方』ジェームス・W・ヤング
アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせである。この一文で知られる、1940年に書かれた古典です。100ページほどの薄い本で、クレオンの「すべての創作には元ネタがある」という主張の、理論的な裏付けにあたります。どうやって材料を集め、どう組み合わせるか。その手順が具体的に書かれています。『クリエイティブの授業』で背中を押されたあと、方法論が欲しくなった方に。
『メモの魔力』前田裕二
SHOWROOM代表の前田裕二さんが、メモを使った思考法を紹介した本です。気になったことを書き留め、そこから本質を抜き出し、別の場面に転用する。クレオンが勧める「盗んだものファイル」を、さらに体系立てて実践する方法と言えます。メモの取り方が具体的なので、真似をする仕組みを日常に組み込みたい方に向いています。
『具体と抽象』細谷功
具体的な事象から本質を抜き出し、それを別の場面に当てはめる。この思考の往復を解説した本です。クレオンの言う「表面ではなく、なぜそれが良いのかを理解して盗む」は、まさにこの抽象化の作業にあたります。上手な盗み方を、思考法として理解したい方に。薄くて読みやすい本です。
『多動力』堀江貴文
1つのことに縛られず、複数の分野を掛け合わせて希少な存在になれ、と説く本です。クレオンが「副業や趣味は大事」と書いたことを、キャリアの視点から極端に推し進めると、この本になります。言い方はかなり断定的ですが、寄り道に罪悪感を持っている人には、別の角度から許可をくれる本です。
参考文献
オースティン・クレオン『クリエイティブの授業』千葉敏生訳、実務教育出版(2012年)
始めるのに、自分が何者かを知る必要はない。
オースティン・クレオン










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