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第79回【世界標準の経営理論】その悩みには名前がついている|800ページの大著から、明日の判断に効く3つの軸を紹介

第79回【世界標準の経営理論】その悩みには名前がついている 自己分析・自己成長
もんとり
もんとり

書店でこの本を手に取ると、まず厚さに驚きます。800ページ超。辞書のような佇まいで、とても通勤カバンには入りません。

 

それでも2019年の刊行以来、ビジネス書としては異例の売れ方をしています。早稲田大学ビジネススクールの入山章栄さんが、世界の経営学で使われている主要な理論30を、ひとつずつ解説した本です。

 

私がこの本で一番好きなのは、理論を「正解」として扱っていないところです。入山さんは繰り返し書いています。理論は答えを与えるものではなく、考えるための軸を与えるものだと。だから同じ状況に、複数の理論が別々の答えを出すことがある。それでいい、というのが本書の立場です。

 

全部を紹介するのは無理なので、この記事ではロジラテの読者に関係が深そうな理論を3つ選びました。転職、人脈、新しい挑戦。どれも日常の判断に直結するものです。

こんな人に読んでほしい

・ビジネス書を何冊読んでも、判断のときに使えている実感がない人

・経営学に興味はあるが、教科書的な本で挫折した経験がある人

・転職、人脈、新しい挑戦について、感覚ではなく根拠を持って考えたい人

やってみよう!

① 本書の目次を見て、今の自分の悩みに近そうな章を1つだけ選ぶ

② その章だけを読む(30〜40ページ程度です)

③ 読んだ理論を、今抱えている具体的な状況に当てはめてみる

④ 「この理論だとこう考えられる。では別の理論なら?」と、もう1つの章を探す

最初から通読しようとしないでください。挫折する原因の大半はそこにあります。

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1.ポイント:理論を「思考の軸」として使う5つの視点

(1)理論は正解ではなく、考えるための軸である

本書の根本にある考え方です。経営理論は「こうすれば成功する」という処方箋ではありません。ある現象を、こういう角度から見るとこう説明できる、という視点の集まりです。

だから同じ問題に対して、経済学の理論と社会学の理論が違う答えを出すことがあります。矛盾しているのではなく、見ている面が違うだけです。

これを知っておくと、ビジネス書の読み方が変わります。「この本とあの本で言っていることが違う」と混乱する必要がなくなる。どちらの軸で見るかを、自分で選べばいいからです。

第79回【世界標準の経営理論】その悩みには名前がついている01

(2)知の探索と知の深化。人も組織も、片方に偏る

本書で最も知られている理論のひとつです。もとはスタンフォード大学のジェームズ・マーチが1991年に提唱したもので、入山さんが「知の探索」「知の深化」という日本語で広めました。

知の探索は、自分の知らない領域に手を伸ばすこと。知の深化は、すでに持っている知識を磨き込むこと。企業が成長するには両方が必要ですが、実際には深化に偏ります。深化のほうが短期的に成果が出て、評価もされやすいからです。

その結果、得意なことをさらに得意にし続けて、環境が変わった瞬間に対応できなくなる。本書ではこれを「コンピテンシー・トラップ」と呼んでいます。

個人にも当てはまります。同じ仕事を10年やって専門性が上がる一方で、隣の分野のことは何も知らない。この状態を、理論は名前をつけて説明してくれます。

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(3)弱いつながりの強さ。転職先は「親友」からは来ない

社会学者マーク・グラノヴェッターが1973年に発表した研究です。転職した人に「その仕事をどうやって知ったか」を調べたところ、親しい友人より、たまにしか会わない知人から情報を得たケースのほうが多かった。

理由は単純です。親しい友人は自分と同じ情報を持っています。同じ職場、同じ業界、同じ人脈。そこから新しい情報は出てきません。一方、年に1回しか会わない知人は、自分の知らない世界とつながっています。

人脈づくりというと「深く付き合う」ことを考えがちですが、この理論はその逆を示します。浅く広いつながりのほうが、転機を運んでくる。本書はこれを、ネットワーク理論の一部として整理しています。

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(4)センスメイキング。正解がないときは、納得できる物語で動く

ミシガン大学のカール・ワイクが提唱した理論です。本書の中でも特に、日本のビジネスパーソンに刺さる内容だと思います。

ワイクの有名な逸話があります。アルプスで遭難した部隊が、偶然持っていた地図を頼りに下山した。あとで確認すると、その地図はアルプスではなくピレネー山脈のものだった。それでも助かった。

正確な地図があったから助かったのではなく、「この地図で帰れる」と全員が信じて動いたから助かった。センスメイキングとは、正確さより納得できる解釈を優先して、まず動き出すことです。

正解のない状況で立ち止まっている人には、この理論が背中を押してくれます。ただし、ワイクは「間違った地図でいい」と言っているわけではありません。動きながら修正することが前提です。

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(5)理論を組み合わせると、見えなかったものが見える

本書の第5部には、ビジネス上の現象と理論を掛け合わせたマトリックスがあります。「イノベーション」という現象に、経済学・心理学・社会学の理論をそれぞれ当てると、別の説明が出てくる。

たとえば転職を考えているとき。弱いつながり理論は「情報の取り方」を教えてくれます。知の探索は「今の職場に居続けることの危険」を示します。センスメイキングは「完璧な確信がなくても動いていい」と言う。

一つの理論では見えなかった判断材料が、三つ重ねると立体的になります。これが本書を「理論の辞書」で終わらせない使い方です。

2.必要な準備

事前準備
通読しないという決断
用意するもの
付箋か、メモアプリ。読んだ理論を自分の状況に当てはめたメモを残していくと、あとで効きます

800ページを最初から読もうとすると、たいてい第1部の経済学ディシプリンで止まります。SCP理論やゲーム理論から始まるので、そこで「自分には関係ない」と感じてしまう。  

読みやすさについては心配いりません。レビューでは「800ページと聞いて構えたが、一気に読めた」「ストーリーテリングがうまくて飽きない」という声が目立ちます。問題は文章ではなく、分量です。目次から気になる章を選んで、そこだけ読む。それで十分です。

なお、紙の本は約1.2kgあります。持ち歩くなら電子書籍版のほうが現実的です。

3.参考例:理論を日常の判断に当ててみる

例1:転職しようか迷っているとき

今の職場で7年。仕事は回せるけれど、これ以上伸びる気がしない。転職サイトを眺めてはいるが、動けずにいる。

経営理論の視点からの問いかけ

まず「弱いつながり」で問いかけてください。転職サイト以外に、自分の知らない世界の情報が入ってくる経路はあるか。学生時代の知人、前職の同僚、勉強会で一度会った人。そういう人に近況を聞くだけで、求人サイトには出ない情報が動き出します。

次に「知の探索」で見てください。今の職場で自分がやっているのは深化ばかりではないか。もしそうなら、転職以前に、社内で違う仕事に手を出す方法もあります。転職は探索の一手段であって、唯一の方法ではありません。

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例2:新しいことを始めたいが、確信が持てないとき

副業でも、社内の新しい企画でもいい。やってみたいが、うまくいく根拠がない。周りに説明できるだけの材料がない。

経営理論の視点からの問いかけ

センスメイキングは、こう問いかけます。「確信」を待っていると、いつ動けるのか。

完璧な地図はありません。今の時点で納得できる説明を組み立てて、小さく動く。動くと情報が入ってきて、説明を修正できる。この繰り返しで、事後的に正しい判断になっていく。

ただし、動く前に一つだけ確認してください。失敗したときに取り返しがつく規模か。取り返しがつくなら、動いて構いません。つかないなら、規模を小さくしてから動く。センスメイキングは「考えなくていい」という理論ではないので、ここは押さえておく必要があります。

第79回【世界標準の経営理論】その悩みには名前がついている06

4.まとめ:全部読まなくていい本

正直に言えば、この本を最初から最後まで読み切った人は、そう多くないと思います。800ページは通読するための分量ではありません。私もそういう読み方はしていません。

それでも手元に置く価値があるのは、判断に迷ったときに開く場所があるからです。転職、人間関係、新しい挑戦、組織の問題。だいたいの悩みに対応する理論が、どこかの章に書いてあります。ビジネス書を何冊も買うより、この1冊を辞書として使うほうが結果的に効きます。

この記事では3つの理論を選びましたが、他にも使えるものは多くあります。認知バイアスの章はThink Smartと重なりますし、リーダーシップの章はHIGH OUTPUT MANAGEMENTを理論の側から補強してくれます。

この本のいちばんの効用は、「自分の悩みには、すでに名前がついている」と知ることかもしれません。名前がつくと、扱えるようになります。

第79回【世界標準の経営理論】その悩みには名前がついている07

この記事を探求できるおすすめ書籍5選

『両利きの経営』チャールズ・A・オライリー、マイケル・L・タッシュマン

本記事で紹介した「知の探索と知の深化」を、企業経営の実例で掘り下げた本です。スタンフォード大学とハーバード大学の研究者が、成功した企業と失敗した企業を比べながら、なぜ両立が難しいのかを説明しています。富士フイルムとコダックの対比など、日本の読者にもなじみのある事例が出てきます。『世界標準の経営理論』でこの理論に興味を持った方は、次に読む本としてちょうどいい位置にあります。

この本はAudibleでも聴けます。通勤・家事の「ながら時間」に読書を取り入れたい方は、まず無料体験から始めてみてください。 AmazonのオーディオブックAudible

『HIGH OUTPUT MANAGEMENT』アンドリュー・S・グローブ

インテル元CEOが、管理職の仕事を経験から定義した本です。『世界標準の経営理論』が学術研究の蓄積を整理した本だとすれば、こちらは現場の実務家が書いた本。同じテーマを反対側から見ています。グローブが経験で導いたテコ作用や1on1の原則が、経営学ではどう説明されるのか。2冊を並べると、実務と理論の答え合わせができます。

『多動力』堀江貴文

1つのことに縛られず、次々に飛び移っていく力を説いた本です。理論の言葉で言えば、これは「知の探索」を極端に推し進めた主張にあたります。『世界標準の経営理論』が両方のバランスを説くのに対して、こちらは探索一辺倒。両方を読むと、自分がどちらに偏りやすいかが見えてきます。堀江さんの断定的な語り口が苦手な方でも、理論の裏づけを知ったうえで読むと受け取り方が変わるかもしれません。

この本はAudibleでも聴けます。通勤・家事の「ながら時間」に読書を取り入れたい方は、まず無料体験から始めてみてください。 AmazonのオーディオブックAudible

『友達の数は何人?』ロビン・ダンバー

人間が安定した関係を維持できる相手の数は約150人という「ダンバー数」を提唱した進化心理学者の本です。弱いつながり理論と合わせて読むと、人脈についての見方が立体的になります。深い関係は150人が限界。だからこそ、その外側にある浅いつながりが転機を運んでくる。この2つの理論は、実は同じことを別の角度から言っています。

『イシューからはじめよ』安宅和人

本当に解くべき問題は何かを見極める方法を説いた本です。『世界標準の経営理論』が「考えるための軸」を与えるなら、こちらは「何を考えるべきか」を選ぶ方法を教えてくれます。理論をたくさん知っていても、解くべき問題を間違えていれば意味がない。その順番を確認するために、先に読んでおくのも一つの手です。

この本はAudibleでも聴けます。通勤・家事の「ながら時間」に読書を取り入れたい方は、まず無料体験から始めてみてください。 AmazonのオーディオブックAudible
参考文献

入山章栄『世界標準の経営理論』ダイヤモンド社(2019年)

コトバのチカラ

経営理論こそが、あなたの思考を解放する。

入山章栄(『世界標準の経営理論』より)


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