
企画会議で「何かいいアイデアない?」と振られて、頭が真っ白になる。あの数秒間は、何度経験しても慣れません。
アイデアが出る人と出ない人の差は、才能やセンスだと思われがちです。ジェームス・W・ヤングはそれを否定しました。アイデアには作り方がある。しかもその手順は、フォードの自動車と同じくらいはっきりしたものだ、と。
ヤングはアメリカの広告代理店で長く働いた広告マンです。この本は、彼が大学で広告を学ぶ学生向けに話した内容がもとになっています。原書が出たのは1940年ごろ。日本語版は1988年に出て、今も版を重ねています。
驚くのは薄さです。新書サイズで102ページ。しかも後ろの3分の1ほどは、地球物理学者の竹内均さんによる解説で、ヤングの本文は60ページほどしかありません。1時間あれば読み終わります。
・会議や企画で「アイデアを出して」と言われるたびに、頭が真っ白になる人
・アイデアはセンスのある人だけが出せるものだと思っている人
・発想法の本を何冊か読んだが、結局何から手をつければいいかわからなかった人
① 今抱えている課題を1つ、紙に書く
② その課題に直接関係する情報と、まったく関係なさそうな分野の情報を、1週間かけて両方集める
③ 集めたものを並べて組み合わせを考える。何も出てこなければ、そこで一度きっぱり忘れる
④ 何かがふと浮かんだら、形が粗くてもすぐ誰かに見せる
③で「忘れる」ことが、この本の手順の一部です。サボりではありません。
1.ポイント:アイデアを手順で生み出す5つの視点
(1)アイデアとは、既存の要素の新しい組み合わせである
本書の第一の原理です。まったく新しいものを無から生み出す必要はない。すでにある要素を、これまでにない形で組み合わせればいい。
これを知るだけで、アイデアへの身構え方が変わります。「誰も考えたことのないものを考えなければ」と思うと手が止まりますが、「何と何を組み合わせるか」なら考えられる。
回転寿司は寿司とベルトコンベアの組み合わせです。スマートフォンは電話と音楽プレーヤーとカメラとインターネットの組み合わせでした。どちらも、要素そのものは以前からあったものです。

(2)組み合わせる力は、関連性を見つける力で決まる
第二の原理は、第一の原理から自然に出てきます。新しい組み合わせを作れるかどうかは、事物と事物のあいだに関係を見つけられるかどうかにかかっている。
ヤングは、この力は生まれつきの才能というより「心の習慣」だと言います。一見関係なさそうなものを見たときに、「これとあれは似ていないか」と考える癖。それを日常的に持っている人ほど、アイデアが出やすい。
広告の世界では、まったく関係のない商品の広告の手法が、別の商品でそのまま使えることがよくあります。それに気づけるかどうかが、この習慣の差です。

(3)アイデアが生まれるまでの5つの段階
本書の中心は、アイデアが生まれる過程を5つの段階に分けて示したところにあります。ヤングは、この順番を飛ばしてはいけないと何度も強調しています。

① 資料を集める
課題に直接関わる「特殊資料」と、幅広い知識や経験である「一般資料」の両方を集めます。
② 資料を咀嚼する
集めた資料を頭の中でいろいろな角度から眺め、組み合わせてみます。この段階では、部分的なアイデアの断片が浮かんでは消えます。書き留めておきます。
③ 一度、問題を放り出す
ここが本書でいちばん有名な部分です。咀嚼に行き詰まったら、問題を意識から完全に外す。音楽を聴く、映画を観る、散歩をする。問題のことは考えません。
④ アイデアが訪れる
放り出していたはずなのに、ある瞬間ふとアイデアが浮かぶ。お風呂に入っているとき、ひげを剃っているとき、朝目覚めた直後。ヤングはこれを、待っていなくても向こうからやってくるものとして書いています。
⑤ アイデアを具体化し、現実に合わせる
浮かんだ瞬間のアイデアは、たいてい粗くて、そのままでは使えません。人に見せて批判を受け、現実の条件に合わせて形を整えていく。ここを嫌がる人が多いのですが、ヤングはこの段階を省くと良いアイデアも消えてしまうと言います。
(4)多くの人が飛ばすのは、地味な第1段階
5つのうちどこが一番難しいかというと、意外にも最初の資料集めです。
ヤングによれば、多くの人は資料集めを嫌がって、いきなり④のひらめきを待とうとします。座って腕を組んで、何かが降りてくるのを待つ。でも材料がなければ、組み合わせようがありません。
特に軽く見られがちなのが「一般資料」です。課題と関係ない本を読む、違う業界の人と話す、行ったことのない場所へ行く。すぐには役に立たない経験の蓄積が、組み合わせの幅を決めます。ヤングは、この一般資料の集め方こそが、アイデアマンとそうでない人を分けると書いています。

(5)「何もしない時間」まで手順に入っている
この本が80年以上読まれている理由の1つは、第3段階の扱いだと思います。
ほとんどの仕事術は「もっと考えろ」「もっと動け」と言います。ところがヤングは、考えるのをやめる段階を、手順の中に正式に組み込みました。しかも、①②で十分に資料を詰め込んだあとでなければ、③で放り出しても何も起きない。考えに考えたうえで手放すから、無意識の中で組み合わせが進む。
締め切り前日に徹夜でうなっても出なかったアイデアが、翌朝のシャワー中に出てくる。あの経験には、ちゃんと理屈があったわけです。

2.必要な準備
本書『アイデアのつくり方』を読んでおくと頭に入りやすいです。
・メモできるもの(②で浮かぶ断片と、④で訪れるアイデアは、書かないとすぐ消えます。スマホのメモで十分です)
・カードや付箋(ヤングは資料をカードに書いて整理する方法を勧めています。並べ替えて組み合わせを試すのに向いています)
・締め切りの数日前に手をつける段取り(③の寝かせる時間を確保するためです。前日に始めると、この手順は使えません)
レビューを見ると、「当たり前のことしか書いていない」と感じた人もいれば、「普通の本を3冊読んだのと同じくらいの充実感があった」という人もいます。評価が割れるのは、手順そのものが単純だからだと思います。実際にやってみると、単純な手順を守ることの難しさがわかります。
もう1つ、竹内均さんの解説が本文に比べて長すぎる、という声もあります。解説は本文の補強として読むと理解が深まりますが、まずはヤングの本文だけを先に読むのがおすすめです。
3.参考例:アイデアの手順を日常の仕事に当てる
例1:企画会議でアイデアを求められて、何も出てこないとき
来週の会議までに、新しい販促企画を3つ考えてくるよう言われた。机に向かって考えてみるが、去年と同じような案しか浮かばない。

アイデアのつくり方の視点からの問いかけ
まず「資料集めを飛ばしていないか」を確認してください。過去の販促企画の資料を見返すのが特殊資料です。それだけでは、去年と同じ案になるのは当然です。
次に「一般資料として、まったく違う業界の販促を見たか」。飲食店のキャンペーン、ゲームアプリのイベント、地域のお祭り。関係なさそうな分野にこそ、組み合わせの材料があります。
そして、会議の前日ではなく3日前に一度手を止める。考え尽くしたら、その日は忘れて帰ります。
例2:ブログのネタが切れて、何を書けばいいかわからないとき
書きたいことはあったはずなのに、いざ画面に向かうと何も浮かばない。書きやすいテーマはもう書いてしまった気がする。

アイデアのつくり方の視点からの問いかけ
「最近、ブログと関係ないものに触れたか」を思い出してください。ネタが切れたと感じるときは、たいてい一般資料の仕入れが止まっています。普段読まないジャンルの本、観たことのない映画、行ったことのない店。
もう1つは「すでに書いた記事同士を組み合わせられないか」です。本で読んだことと、映画で観たことと、ゲームで体験したことのあいだに共通点はないか。新しいネタは、手元の材料の組み合わせからも生まれます。
4.まとめ:ひらめきは、待つものではなく準備するもの
正直に書くと、この本を読んですぐにアイデアがあふれ出すわけではありません。書いてあるのは、資料を集めて、噛み砕いて、寝かせて、待って、形にするという、拍子抜けするほど単純な手順です。
ただ、単純だからこそ、どこで自分が手を抜いているかがすぐにわかります。私の場合は第1段階でした。アイデアが出ないと悩んでいたとき、実は材料をほとんど仕入れていなかった。座って待っていただけでした。
アイデアは才能のある人だけのものではない、とヤングは言います。必要なのは手順と、日頃から関係なさそうなものを仕入れておく習慣です。それなら、今日からでも始められます。
102ページの、1時間で読める本です。読み終えたら、まず関係なさそうな本を1冊手に取ってみてください。

この記事を探求できるおすすめ書籍5選
『クリエイティブの授業』オースティン・クレオン
何もないところから生まれた作品はない、すべての創作には元ネタがある、と説く本です。ヤングの「既存の要素の新しい組み合わせ」を、現代のクリエイター向けに語り直したような一冊と言えます。ヤングの本が手順を示すとすれば、こちらは「真似から始めていい」という許可をくれる本です。薄くて読みやすく、2冊とも1時間ほどで読めるので、続けて読むと発想に対する構えがかなり軽くなります。
『考具』加藤昌治
広告会社の博報堂に勤める加藤昌治さんが、アイデアを出すための具体的な道具を紹介した本です。マンダラート、カラーバス、ブレーンストーミングなど、21の手法が使い方つきで並んでいます。『アイデアのつくり方』が原理を教える本だとすれば、こちらは原理を実行するための道具箱にあたります。特に第1段階の資料集めと、第2段階の咀嚼で使える技が多く、ヤングを読んで「では具体的に何をすればいいか」と思った方にちょうどいい一冊です。
『発想法』川喜田二郎
文化人類学者の川喜田二郎さんが、野外調査で集めた膨大なデータを整理するために考えた「KJ法」の解説書です。1967年刊行の古い本ですが、情報をカードに書き出し、似たものを集め、関係を図にする手法は、今も多くの企業で使われています。ヤングが勧める「資料をカードで整理する」方法を、さらに体系立てたものと言えます。集めた資料の咀嚼の仕方に悩んでいる方に。
『メモの魔力』前田裕二
SHOWROOM代表の前田裕二さんが、メモを使った思考法を紹介した本です。気になった事実を書き留め、そこから本質を抜き出し、別の場面に転用する。この流れは、ヤングの第1段階から第2段階を、日々のメモの習慣に落とし込んだものと言えます。一般資料をどう仕入れて、どう貯めておくか。その仕組みを作りたい方に向いています。
『具体と抽象』細谷功
具体的な事象から本質を抜き出し、別の場面に当てはめる思考を解説した本です。ヤングの第二の原理「関連性を見つける力」は、言い換えれば、具体的なものを一段抽象化して共通点を見つける力です。回転寿司とベルトコンベアの関係に気づくのも、この抽象化の作業にあたります。関連性を見つける習慣を、思考法として理解したい方に。
参考文献
ジェームス・W・ヤング『アイデアのつくり方』今井茂雄訳、竹内均解説、CCCメディアハウス(1988年)
アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない。
ジェームス・W・ヤング










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