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第17回【偉人の言葉】「やってみた夜」|セネカに学ぶ、しんどいのは作業ではなく迷っている時間

【偉人の言葉】「やってみた夜」 偉人の言葉から学ぼう
もんとり
もんとり

出さなきゃいけない書類。返さなきゃいけないメール。机の端に置いたまま、一週間、二週間。手はつけていないのに、なぜか毎晩そのことを考えている。

 

そういうとき、私たちはだいたいこう思っています。難しいから、手がつかない。

 

二千年前のローマに、それは逆だと言った人がいます。

 

「難しいからやろうとしないのではない。やろうとしないから、難しくなるのだ」

こんな人に読んでほしい

・手をつけていない作業が、頭の片隅にずっと居座っている人

・準備が整ったら始めようと思いながら、時間だけが過ぎている人

・先延ばしにしている自分を責めて、よけいに動けなくなっている人

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言葉の意味

難しいからやろうとしないのではない。やろうとしないから、難しくなるのだ

古代ローマの哲学者セネカが、友人ルキリウスに宛てた手紙に書いた一文です。『倫理書簡集(ルキリウス宛書簡)』の第104書簡に出てきます。

ラテン語の原文はこうです。

Non quia difficilia sunt non audemus, sed quia non audemus difficilia sunt.
(難しいから、私たちは挑まないのではない。私たちが挑まないから、難しいのだ)

「difficilia sunt」が「難しい」、「non audemus」が「挑まない」にあたります。前半と後半で、この二つを入れ替えているだけの文です。

難しいことと、挑まないこと。どちらが原因で、どちらが結果なのか。

普通は、難しさが先にあると考えます。難しいから手が出ない。セネカはその矢印を逆に向けました。

手をつけていないあいだ、その仕事の中身はわかりません。わからないものは、想像で埋めるしかない。そして想像は、たいてい実物より大きく育ちます。難しさの一部は、仕事そのものではなく、やらずにいた時間が作っている。この言葉が言っているのは、そういうことです。

【偉人の言葉】「やってみた夜」01

言葉の背景

セネカ(前4年ごろ〜後65年)は、ローマ帝国の政治家であり、ストア派の哲学者です。

【偉人の言葉】「やってみた夜」02

この人の人生は、浮き沈みが激しい。

紀元41年、皇帝クラウディウスの時代に、皇帝の姪との不義の罪を問われます。元老院は死刑を求めましたが、皇帝が減刑し、コルシカ島への追放となりました。島での暮らしは8年に及びます。

49年、皇后アグリッピナの働きかけでローマに呼び戻されます。任されたのは、彼女の息子の家庭教師でした。その少年が、のちの皇帝ネロです。

ネロが即位すると、セネカは側近として政治の中枢に立ちます。けれど年月とともにネロとの関係は冷え、やがて宮廷から身を引いていきました。そして65年、ネロ暗殺の陰謀に関わったとされ、自ら命を絶つよう命じられます。本当に陰謀に加わっていたのかは、今もはっきりしていません。

この言葉が収められた『倫理書簡集』は、政治から退いた晩年に書かれた手紙の集まりです。追放も、権力の中枢も、主君の心変わりも経験した人が、人生の終わり近くに書いた一文ということになります。

セネカは別の著作『人生の短さについて』で、先延ばしをもっとまっすぐ批判しています。

生きることを何よりも妨げるのは、明日をあてにすることだ。明日をあてにして、今日を失う。
(Maximum vivendi impedimentum est exspectatio, quae pendet ex crastino, perdit hodiernum.)

人は財産には慎重なのに、時間だけは平気で手放す。この本で、セネカは何度もそう書いています。先延ばしの重さを、誰よりも考えていた人でした。

【偉人の言葉】「やってみた夜」03

現代の私たちへの学び

この言葉は、最初に読むと少し耳が痛い。やらないお前が悪い、と言われているような気がします。

でも、もう一度読むと、叱っている言葉ではないことに気づきます。

難しさの何割かは、やらずにいた時間が作ったものだ。だとすれば、その何割かは、手をつけた瞬間に消える。これは責める話ではなく、むしろ救いのある話です。

三週間放っておいた書類を開いてみたら、二十分で終わった。そういう経験は、たぶん誰にでもあると思います。三週間ずっと重たかったのは、書類の中身ではありませんでした。開いていないから、中身の大きさがわからなかった。わからないものは、毎晩少しずつ大きくなっていく。

【偉人の言葉】「やってみた夜」04

もう一つ、見落としやすいことがあります。

やらずにいるのは、ラクではない、ということです。

手をつけていない作業は、終わるまでずっと頭の片隅に居座ります。仕事中も、お風呂でも、寝る前も。実際に作業している時間より、迷っている時間のほうが長くて、しかも疲れる。やらないことを選んだつもりで、実はいちばん疲れる道を選んでいる。

【偉人の言葉】「やってみた夜」05

だから、全部を片づける必要はありません。開くだけでいい。一行だけ書く、一枚だけ目を通す。それだけで、想像で膨らんでいた部分がしぼんで、実物の大きさが見えてきます。

セネカの言葉を逆から読むと、こうなります。やろうとすれば、難しさは減る。

【偉人の言葉】「やってみた夜」06

音楽で味わう

この曲は、落ち着いたアコースティックにしました。

先延ばしの歌は、応援歌にもできます。「さあ、今日こそやろう!」と背中を叩くような曲です。でもそうしなかったのは、セネカの言葉が気合の話ではないからです。言っているのは、見え方の話。だから、夜にひとりで聴いていて、ふっと肩の力が抜けるような曲にしたかった。

悩んでるだけの日も ちゃんと 一日 使ってる

やっていない日は、何も減っていないような気がします。でも時間のほうは、普通に減っている。『人生の短さについて』でセネカが書いていたことを、自分の言葉に置き換えるとこうなりました。

「明日のわたし」に まかせても
明日も 同じ わたしが 座ってる

そのすぐあとの二行も気に入っています。明日をあてにして今日を失う、というセネカの一文を、机の前の風景にするとこうなります。

最後のサビだけ、言葉を変えています。

今日 少しだけ 手をつけた
それだけで 夜が 軽くなった

全部終わらせた夜ではなく、少しだけ手をつけた夜。この曲のタイトルを「やってみた夜」にしたのは、そのためです。

歌詞

出さなきゃいけない 書類が一枚
机に置いたまま 三週間
まだ 何も してないはずなのに
毎晩 なぜか そのことを 考えてる

やらずにいるのは ラクだと思ってた
なのに ずっと 疲れてた

やらないままの ひとつが
終わるまで ずっと ついてくる
難しいから できないんじゃない
やらないうちに 難しくなるだけ
やってみた夜 やっとわかった
仕事より 迷うほうが しんどい

開いてみたら 半分は 心配しすぎ
残りの半分は 思ったより 面白くて
三週間 でかく見えてた壁は
近づいたら ひざくらいの 高さだった

準備が ぜんぶ 整う日なんて
たぶん 一生 来ないまま

やらないままの ひとつが
終わるまで ずっと ついてくる
難しいから できないんじゃない
やらないうちに 難しくなるだけ
やってみた夜 やっとわかった
仕事より 迷うほうが しんどい

悩んでるだけの日も
ちゃんと 一日 使ってる
「明日のわたし」に まかせても
明日も 同じ わたしが 座ってる

やらないままの ひとつが
終わるまで ずっと ついてくる
難しいから できないんじゃない
やらないうちに 難しくなるだけ
今日 少しだけ 手をつけた
それだけで 夜が 軽くなった

この言葉をもっと深く知る本

『人生の短さについて 他2篇』セネカ

本文で引いた「明日をあてにして今日を失う」が入っている本です。人生は短いのではなく、私たちが短くしているのだ、という話から始まります。二千年前の本ですが、スマホを見ているうちに一日が終わる今の暮らしに、そのまま当てはまる箇所がいくつもあります。薄くて読みやすく、セネカの入口として最初に手に取るならこれです。

この本はAudibleでも聴けます。通勤・家事の「ながら時間」に読書を取り入れたい方は、まず無料体験から始めてみてください。 AmazonのオーディオブックAudible

『自省録』マルクス・アウレリウス

セネカと同じストア派の哲学を、ローマ皇帝が自分のために書き留めたノートです。人に見せるつもりのなかった文章なので、言い聞かせるような、ときどき弱音のような言葉が並んでいます。「朝、起きるのがつらいときは」という書き出しの一節があって、皇帝でも布団から出たくない日があったのかと、少し笑ってしまいます。

この本はAudibleでも聴けます。通勤・家事の「ながら時間」に読書を取り入れたい方は、まず無料体験から始めてみてください。 AmazonのオーディオブックAudible

『ヒトはなぜ先延ばしをしてしまうのか』ピアーズ・スティール

先延ばしを研究してきた心理学者が、なぜ人はやるべきことを後回しにするのかを、データをもとに解き明かした本です。セネカが二千年前に言い当てたことを、現代の研究で確かめ直すような一冊。根性論ではなく仕組みとして先延ばしを理解したい人に向いています。

もう一度、この言葉を

難しいからやろうとしないのではない。やろうとしないから、難しくなるのだ
——セネカ

読む前は、自分を叱る言葉に見えていたかもしれません。

読んだあとなら、少し違って見えると思います。難しさの何割かは、やらずにいた時間が作ったものだった。だとすれば、開いてみるだけで、その何割かは消えていく。

先延ばしにしていたのに、やってみたら「これだけだったのか」と拍子抜けしたこと、ありますか。

【偉人の言葉】「やってみた夜」07


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