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第27回【イギリス映画】イミテーション・ゲーム「普通じゃないことは、欠点ではない」|エニグマを解いたコンピュータの父、アラン・チューリングの実話

【イギリス映画】イミテーション・ゲーム「普通じゃないことは、欠点ではない」 映画から学ぼう
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トレーラー

出典:
映画『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』予告編 ( https://www.youtube.com/watch?v=Lzd7MAd0J5A )シネマトゥデイ

レビュー

第二次世界大戦中、ナチス・ドイツは「エニグマ」という暗号機で軍の通信を守っていました。設定の組み合わせは、約1億5900京通り。しかも設定は毎日0時に変わります。人間が手作業で解こうとしても、1日では到底終わりません。

この暗号に挑んだのが、数学者アラン・チューリングです。彼はある発想をします。人間が解けないなら、解くための機械を作ればいい。

映画はこの暗号解読の物語と、チューリングという人物の生涯を、3つの時代を行き来しながら描いていきます。寄宿学校時代の少年期、戦時中の暗号解読、そして戦後に警察の取り調べを受ける晩年。最初は時系列が入り組んでいて戸惑いますが、終盤にかけて3つの時代がひとつの線でつながります。

ベネディクト・カンバーバッチが演じるチューリングは、とにかく人付き合いが下手です。冗談が通じず、同僚を苛立たせ、上官とは衝突ばかり。それでも誰よりも先を見ている。この人物が、なぜ戦後にあのような扱いを受けなければならなかったのか。観終わったあと、しばらく言葉が出ませんでした。

暗号や数学の知識はまったく要りません。難しい理論の説明はほとんど出てこないので、文系の人でも置いていかれることはないと思います。

【イギリス映画】イミテーション・ゲーム「普通じゃないことは、欠点ではない」01

映画の背景を読む

(1)エニグマとブレッチリー・パーク

エニグマはタイプライターのような見た目の暗号機です。キーを押すと内部の回転盤が動き、まったく別の文字に変換されて出てくる。回転盤の組み合わせと配線の設定によって、変換のパターンが膨大な数になります。

イギリスはロンドン郊外のブレッチリー・パークに暗号解読の拠点を置き、数学者や言語学者を集めました。チューリングはそこで、解読を自動化する機械「ボンブ」の設計に中心的な役割を果たします。

この機械の考え方は、のちのコンピュータにつながっていきます。チューリングが「コンピュータの父」と呼ばれるのは、戦前の1936年に発表した論文で、計算そのものを機械で表す理論を示していたからです。戦時中の暗号解読は、その理論を現実の問題に当てはめた最初の大きな事例でした。

【イギリス映画】イミテーション・ゲーム「普通じゃないことは、欠点ではない」02

(2)クロスワードパズルで集められた解読者たち

映画の中盤、新聞にクロスワードパズルを載せて、早く解けた人を暗号解読者として採用する場面があります。作り話のように見えますが、これには実際の根拠があります。1942年1月、ロンドンのデイリー・テレグラフ紙に掲載されたクロスワードが、解読者の採用に使われました。

学歴でも経歴でもなく、パズルを解く力で人を選ぶ。この方法で集まったのは、職業も背景もばらばらな人たちでした。

ここは今の組織にもそのまま当てはまる話だと思います。必要な能力を持つ人は、履歴書の見た目どおりの場所にいるとは限りません。

【イギリス映画】イミテーション・ゲーム「普通じゃないことは、欠点ではない」03

(3)映画が変えた史実

正直に書いておかなければならないことがあります。この映画は、史実をかなり変えています。公開後、歴史家や評論家から多くの批判を受けました。

主なものを挙げると、次のとおりです。

チューリングが機械に「クリストファー」と名づける場面がありますが、実際の最初の機械の名前は「ヴィクトリー」でした
ソ連のスパイをめぐる筋書きは創作で、事実の裏づけはありません
エニグマ解読の土台を作ったのはポーランドの数学者たちで、1939年にはイギリスに解読機の情報を提供していました。映画ではこの貢献がほとんど描かれていません
上官のデニストンや同僚との対立は、実際よりかなり大げさに描かれています
チューリングの人付き合いの下手さも、伝記で描かれる実像より誇張されているという指摘があります

映画としての緊張感を作るために、対立と孤独を強めた脚色です。それが物語の力になっている面もあります。ただ、この映画をそのまま「チューリングの実像」として受け取るのは危ういと思います。興味を持ったら、後で紹介する伝記で確かめてみてください。

(4)戦後のチューリングに起きたこと

ここは映画の脚色ではなく、事実です。

1952年、チューリングは同性愛を理由に有罪判決を受けます。当時のイギリスでは同性愛が犯罪とされていました。刑務所に入るか、ホルモン治療を受けるかを選ばされ、彼は治療を選びます。そして1954年、41歳で亡くなりました。青酸中毒でした。

戦時中の暗号解読は長く国家機密とされていたため、彼の功績は生前ほとんど知られていませんでした。国を救った人物が、その国の法律によって追い詰められた。

2009年にイギリスのゴードン・ブラウン首相が政府として公式に謝罪し、2013年にはエリザベス女王の名で死後恩赦が出されました。2021年からは、50ポンド紙幣にチューリングの肖像が使われています。名誉が回復されるまでに、亡くなってから半世紀以上かかったことになります。

【イギリス映画】イミテーション・ゲーム「普通じゃないことは、欠点ではない」04

(5)『イミテーション・ゲーム』はどこで観られるか

Amazon Prime Video、U-NEXTなどの配信サービスで観られることがあります(配信状況は時期によって変わるので、最新の情報は各サービスで確認してください)。DVD・Blu-rayも発売されています。

上映時間は114分です。3つの時代が切り替わる構成なので、できれば途中で止めずに一気に観ることをおすすめします。

この映画を観て学べること

この映画が描いているのは、発想の転換です。毎日変わる暗号を、人間が毎日解き続けるのは無理だった。だからチューリングは問いそのものを変えました。どうやって解くか、ではなく、何に解かせるか。ここがこの映画の一番の学びだと思います。

もう1つは、異質な人をどう扱うかという問題です。映画の中のチューリングは、チームの和を乱す扱いにくい人物として描かれています。脚色はあるにしても、彼のような人がいなければ解読はできませんでした。そして戦後、社会は彼を受け入れなかった。

組織の中で「普通じゃない」とされる人は、たいてい扱いにくい人として処理されます。けれど、普通の発想で解けない問題を解くのは、普通じゃない人であることが多い。その人を排除するのか、活かすのか。この映画は、その選択を間違えた結果がどうなるかを見せてくれます。

【イギリス映画】イミテーション・ゲーム「普通じゃないことは、欠点ではない」05

この映画を観た後に読みたい本

チューリングと暗号の実像を知る

『エニグマ アラン・チューリング伝』アンドルー・ホッジス

映画の原作にあたる伝記です。数学者のアンドルー・ホッジスが、チューリングの生涯を膨大な資料をもとに描いています。映画で脚色された部分が、実際にはどうだったのか。ポーランドの数学者の貢献や、同僚との本当の関係も、この本で確かめられます。上下巻の大著で読み通すのは大変ですが、映画を観て「本当はどうだったのか」が気になった方には、これ以上の資料はありません。

『暗号解読』サイモン・シン

古代から現代までの暗号の歴史を、一般向けにわかりやすく書いた本です。エニグマの仕組みとその解読にも多くのページが割かれていて、映画では省略された技術的な部分が理解できます。数学が苦手でも読めるように書かれているので、暗号に興味を持った方の入口として最適です。読み物としても純粋に面白い一冊です。

異なる人が集まるチームを考える

『多様性の科学』マシュー・サイド

同じような人ばかりが集まった組織は、なぜ判断を誤るのか。認知の多様性がチームの成果をどう変えるかを、多くの事例で描いた本です。クロスワードで経歴の違う人を集めたブレッチリー・パークの話は、まさにこの本のテーマと重なります。チームの多様性を「配慮」ではなく「成果の条件」として考えたい方に。

この本はAudibleでも聴けます。通勤・家事の「ながら時間」に読書を取り入れたい方は、まず無料体験から始めてみてください。 AmazonのオーディオブックAudible

発想の源を探る

『アイデアのつくり方』ジェームス・W・ヤング

アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせである、と説いた古典です。100ページほどの薄い本で、1時間あれば読めます。チューリングが暗号解読に持ち込んだのも、数学の理論と機械の技術という、別々の要素の組み合わせでした。発想とは何もないところから生まれるのではない、ということを手順として教えてくれます。

『具体と抽象』細谷功

具体的な事象から本質を抜き出し、別の場面に当てはめる思考の往復を解説した本です。チューリングは「計算とは何か」を抽象化して機械の形に落とし込み、それを暗号という具体的な問題に適用しました。問いそのものを変えるという発想の裏にある思考の型を、身近な言葉で理解できます。

この本はAudibleでも聴けます。通勤・家事の「ながら時間」に読書を取り入れたい方は、まず無料体験から始めてみてください。 AmazonのオーディオブックAudible

基本情報

原題:The Imitation Game
公開年:2014年(日本公開:2015年3月)
監督:モルテン・ティルドゥム(Morten Tyldum)
脚本:グレアム・ムーア
原作:アンドルー・ホッジス『エニグマ アラン・チューリング伝』(勁草書房)
上映時間:114分
受賞歴:アカデミー賞脚色賞受賞(8部門ノミネート)
主なキャスト ベネディクト・カンバーバッチ、キーラ・ナイトレイ、マシュー・グード、マーク・ストロング
配信:Amazon Prime Video、U-NEXT 他(時期により変動)

コトバのチカラ

私たちに見えるのは、ほんの少し先までだ。それでも、そこにはやるべきことがたくさんある。

アラン・チューリング


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