トレーラー紹介
レビュー
*原則ネタバレを含まないようにレビューしていますが、ストーリーの流れや一部分の内容、撮影手法などへの言及を含むことがありますので、情報を入れずに観たいという方は、鑑賞後にお読みください。
中国映画をお薦めするならこの作品!『北京ヴァイオリン』です。
中国の田舎町で料理人として働く劉成(リュウ・チェン)は、息子小春(シャオチュン)を立派なバイオリニストにするためにコツコツと貯金をし、国際コンクールに出席するために北京へ。劉成は小春が独奏者として成功するには権威ある教授につくことが大切だと知り、世捨て人のような暮らしをする江(ジャン)先生ではなく、音楽学院の余(ユー)教授に小春を託す。
そのことで小春は父への反発から、自分のヴァイオリンを売って高級娼婦の莉莉(リーリー)に毛皮のコートを買ってしまう。劉成は自分がいては小春の将来の邪魔になると考え北京を離れようとするが・・・。
監督はカンヌ映画祭パルムドール受賞の陳凱歌(チェン・カイコー)氏。2003年、彼は来日の際本作について、「中国は今、豊かになりはじめ、大きな変貌を遂げているが、そのために精神面、文化面での犠牲も多い。人の絆も空疎になっており、この作品では改めて人の温かみの大切さを描きました」とコメントしています。
映画の背景を読む
(1)中国が置かれた社会背景を知る
映画が公開された2003年、陳凱歌(チェン・カイコー)監督が言うように中国は激変の最中です。当時は国内総生産(GDP)も日本の約3分の1ですが、5年後にはほぼ追いつかれるほどの成長スピードです。GDPだけ見ると今では日本の4倍の国になっています。
そのような社会で子どもに音楽を習わせる親は、子どもの教育のためというより自分たちの将来の安定を賭けて躍起になっている。女性は体を張り物質的な要求を満たしている。時代の変化に合わせた人間だけが豊かな生活を保証される。
劇中で陳凱歌(チェン・カイコー)監督が自ら演じる音楽学院の余(ユー)教授はまさに功利的な人物です。
お前の名声のためだ。私にはお前の成功の裏にある危機が見える。
という余(ユー)教授が弟子に言う言葉は監督の自戒の念にも聞こえる。
(2)陳凱歌(チェン・カイコー)監督の有名な作品は?
カンヌ映画祭でパルムドール受賞した作品は『覇王別妃/さらば、わが愛』(1993年)です。
(3)映画「北京ヴァイオリン」に学ぶこと
激変にある中国社会で心が荒む人々のなかで、「人はどう生きるべきか」を劉成(リュウ・チェン)の姿から学ぶことができる。強い絆で結ばれた父が、息子の成長のために一身に愛情を注ぎ続けるその姿は心を打たれる。特にラストのシーンは涙せずには見られないほど音楽だけで伝わってくる父子の絆を感じることができます。
(4)ラストシーンのクラシック音楽のタイトルは?
ピョートル・チャイコフスキーが1875年に作曲した作品。交響曲第3番ニ長調。『ポーランド』の愛称で知られている。
この映画を観て学べること
この映画は、家族愛、夢への追求、社会的現実という普遍的テーマを通して、現代社会における人間関係の本質を深く問いかけています。
まず、息子の才能を信じ、自分の人生を犠牲にしてでも支援する父親の無償の愛と、成長とともに変化する親子関係の機微を描いています。真の愛は時として手放すことも含むという深い洞察を示しています。
また、音楽への純粋な情熱と、現実的な成功や金銭的な豊かさとの間で揺れる主人公を通して、芸術と実利のバランスをどう取るかという普遍的な問題を提起しています。貧しい地方出身の父子が北京で直面する社会的格差や、お金の力が才能よりも重視される現実を鋭く描き、現代中国社会の矛盾を浮き彫りにしています。
さらに、異なる価値観を持つ二人の音楽教師(伝統的な江教授と商業的な余教授)との関係を通して、真の教育とは何か、師から弟子へ何を伝えるべきかを考察しています。
そして言葉や文化の違いを超えて人の心を動かす音楽の力と、技術だけでなく感情や人生経験が演奏に深みを与えることの重要性を示しています。
この映画を観た後に読みたい本
中国映画・現代中国社会に関する書籍
『現代中国の子育てと教育』(矢藤優子・吉沅洪著)は、発達心理学から見た課題と未来展望として、幼児教育、都市部の家庭養育、農村部の留守児童・流動児童、障がい児養育など、現代中国の子育て・教育の現状と課題を実証的に探究している専門書です。映画で描かれた地方から北京への移住や教育格差の実態を理解できます。
親子関係・教育格差に関する書籍
『教育格差』(松岡亮二著)では、現代社会における教育格差の実態を分析しています。映画で描かれた経済格差と教育機会の関係を理論的に理解できます。
『日本の幸福度 格差・労働・家族』(大竹文雄著)は、家族関係と社会格差の関係を分析した現代的な研究書です。
音楽教育・才能開発に関する書籍
『才能を伸ばす親 つぶす親』(フレディ松川著)は、音楽的才能を持つ子どもの教育について、親の関わり方や師弟関係の重要性を扱った書籍です。
基本情報
原題:和你在一起(あなたと一緒に)
英題:Together
ジャンル:ヒューマンドラマ
公開:2003年
時間:1時間57分
監督:陳凱歌(チェン・カイコー)
出演:唐韻(タン・ユン)、劉佩琦(リウ・ペイチー)
受賞:サン・セバスティアン国際映画祭監督賞、フロリダ映画祭観客賞、トライベッカ映画祭観客賞
息子に素晴らしいチャンスを与えることが、父親の務めである。
ジョージ・エリオット
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