
「アトランタに3つ目のキューブが乗った。次にここが引かれたらアウトブレイクだ」
「私が行く。でも治療したら手番が終わる」
「じゃあ私は研究所を建てる。カードあと1枚で青の治療薬ができる」
「感染カード、めくるよ……」
全員が盤面を覗き込んで、息を止める。パンデミックの終盤は、だいたいこんな空気になります。
このゲームに相手はいません。プレイヤー全員が同じチームで、世界に広がる4種類の病原体と戦います。勝つときは全員で勝ち、負けるときは全員で負ける。そして正直に言うと、負けるほうが多いです。初めてのプレイで勝てる確率は、体感で3割くらいです。
・対戦型のゲームで気まずくなった経験があり、全員が同じ側に立てるゲームを探している人
・職場のチームがうまく機能しないと感じていて、その理由を別の角度から見てみたい人
・45分で終わって、しかも毎回違う展開になるボードゲームがほしい人
① パンデミックを購入する(現行の日本語版は「パンデミック:新たなる試練」です。基本セットはこれ1つで十分です)
② ルールを確認する(このページで一通りわかります。初回は説明に10分ほどかかります)
③ まず「難易度:入門」で遊ぶ(エピデミックカード4枚の設定です。それでも負けます。負けたら、なぜ負けたかを全員で話してから2回目に入ってください)
1.ポイント:相手のいないゲームで、チームの動き方が見えてくる
このゲームで身に付く力
パンデミックで一番試されるのは、優先順位の判断です。目の前で燃えている都市を消すか、それを放置して治療薬の開発を進めるか。この二択が毎手番やってきます。全部を消そうとすると治療薬が間に合わず、治療薬だけ狙うとアウトブレイクで崩壊します。
次に情報共有です。このゲームは手札を公開して遊びます。誰が何を持っているか、全員が見える。それでも「あの人がそのカードを持っていることを忘れていた」という失敗が起きます。見えているのに共有できていない状態は、職場でもよくあります。
そして、これが本題ですが、チームの中で誰が指示を出すかという問題に直面します。協力ゲームには「クォーターバック問題」と呼ばれる現象があります。ルールに詳しい1人が全員の手番を指示し始め、他の人はただ言われた通りに駒を動かすだけになる。効率は上がりますが、ゲームは面白くなくなります。これは職場のチームで起きていることと、ほぼ同じ構造です。

ゲーム概要
パンデミックは2008年にアメリカのマット・リーコックがデザインし、Z-Man Gamesから発売されたボードゲームです。協力型ボードゲームというジャンルを世界に広めた作品として知られ、翌2009年のドイツ年間ゲーム大賞にノミネートされました。
日本語版はホビージャパンから発売されています。現在流通しているのは2013年に改訂された第2版をもとにした「パンデミック:新たなる試練」です。
盤面は世界地図で、48の都市が線でつながっています。4種類の病原体が世界各地で発生し、放置すると隣の都市へ広がっていきます。プレイヤーはそれぞれ「衛生兵」「科学者」「研究員」といった役割を持ち、専門能力を活かして治療薬の開発を目指します。
ゲームのルールとポイント
ルール①:自分の手番で4つの行動をする
1手番で4アクションを使えます。主な行動は次の通りです。
都市の病原体キューブを1つ取り除く(治療)
都市に研究所を建てる
同じ色のカードを5枚集めて、研究所で治療薬を発見する
移動には数種類あり、手札のカードを使えば遠くの都市へ飛べます。カードは移動にも治療薬にも使うので、ここで悩みます。
ルール②:手番の終わりにプレイヤーカードを2枚引く
カードは治療薬の材料であり、移動手段でもあります。ただし山札にはエピデミック(急性流行)カードが混ざっていて、これを引くと感染が一気に悪化します。しかもエピデミックが起きると、すでに感染した都市のカードが山札の上に戻されます。つまり、同じ都市がまた感染する。ここが、このゲームで最も意地の悪い仕組みです。
ルール③:感染カードをめくって、都市に病原体を置く
手番の最後に感染カードをめくり、出た都市にキューブを1つ置きます。1つの都市に4つ目が置かれると「アウトブレイク」が起きて、隣接するすべての都市にキューブが飛び散ります。隣の都市もすでに3つ乗っていれば、連鎖します。この連鎖が始まると、盤面が数手番で崩壊します。
勝利条件と敗北条件
このゲームに得点はありません。全員で勝つか、全員で負けるかです。
敗北は3通りあります。
3つ目が見落とされがちです。時間切れも負けなのです。「まだ大丈夫」と目の前の火消しに手番を使い続けると、カードが尽きて終わります。

2.必要な準備
・45分から1時間の時間
・プレイヤー2〜4人を集める
・パンデミック本体(「パンデミック:新たなる試練」日本語版)(3〜4人が一番バランスがいいです。2人だと役割が足りず難易度が上がります)
・少し広めのテーブル(世界地図の盤面が大きいので、食卓なら1卓分使います)
初回はルール説明とセットアップに時間がかかるので、1時間半は見ておいてください。2回目からは45分で終わります。
3.参考例:初心者が知っておきたい3つのコツ
(1)「火消し」より「治療薬」を優先する
初めて遊ぶ人は、キューブが3つ乗った都市を見ると、すぐに消しに行きたくなります。気持ちはわかりますが、それをやり続けると治療薬が間に合いません。
治療薬が1つできると、その色の病原体は治療が楽になります(衛生兵なら一度に全部消せます)。だから序盤は多少の危険を許容してでも、カードを集めて治療薬を優先する。アウトブレイクは8回まで耐えられます。1〜2回は起きるものと割り切ってください。

(2)手札を声に出して確認する
手札は公開ですが、テーブルの上に並んでいるだけでは頭に入りません。手番の最初に「私は青2枚、黄色1枚」と声に出す習慣をつけてください。
これをやると「あと1枚で青が揃う人がいる」「その人に自分の青を渡せば治療薬ができる」という連携が生まれます。カードの受け渡しはこのゲームの重要な行動ですが、同じ都市にいないとできません。誰が何を持っているかを全員が把握して初めて、合流する計画が立てられます。
(3)誰か1人が全部決めない
一番大事なコツです。ルールを覚えた人が「あなたはこう動いて、次はこう」と全員の手番を指示し始めると、他のプレイヤーは駒を動かすだけになります。
ゲームとしては効率的かもしれません。でも他の人は、自分で考えていないので上達しないし、面白くない。そして指示している人も、自分の視点だけで判断するので見落としが出ます。
自分の手番は自分で考える。相談はするが、最終判断は本人がする。このルールを最初に決めておくと、ゲームが変わります。職場のチームでも、まったく同じことが言えます。

4.まとめ:負けても、全員で負けるから話せる
パンデミックは、よく負けるゲームです。それでも繰り返し遊ばれているのは、負けたあとの会話が面白いからだと思います。
対戦ゲームで負けると、悔しさは自分1人のものです。でもパンデミックで負けると、全員が同じ盤面を見て「あそこで研究所を建てるべきだった」「あの手番で治療薬を優先していれば」と話し始めます。誰のせいでもなく、チームの判断の問題として振り返れる。この感覚は、仕事のプロジェクトが失敗したときに本来あるべき空気に近いものです。
そして、クォーターバック問題。声の大きい1人が全部決めると、効率は上がっても、チームは育たないし、面白くもない。ゲームで体験すると、これが腑に落ちます。
3〜4人で、45分。負けることを前提に、2回続けて遊んでみてください。1回目で失敗して、2回目で修正する。その過程そのものが、このゲームの一番の価値だと思います。

関連おすすめボードゲーム3選
花火(Hanabi)
自分の手札が自分だけ見えない、という逆転の発想の協力ゲームです。他のプレイヤーからヒントをもらいながら、全員で花火を順番通りに打ち上げていきます。2013年のドイツ年間ゲーム大賞を受賞しました。パンデミックが「情報を共有する」ゲームなら、花火は「限られた情報をどう伝えるか」のゲーム。伝え方の難しさを、こちらのほうが直接的に味わえます。
ザ・クルー
トランプのようなカードで、全員が協力して指定されたミッションを達成する協力ゲームです。会話がほぼ禁止されているので、カードの出し方だけで意図を伝えることになります。2020年のドイツ年間ゲーム大賞エキスパート部門を受賞。50のミッションが段階的に難しくなる構成で、パンデミックのあとに遊ぶ協力ゲームとして相性がいいです。
ito(イト)
手元の数字を言葉で表現して、全員で小さい順に並べる協力ゲームです。ルールが1分で説明できるので、パンデミックの前の準備運動として出しても、後の締めに出しても機能します。パンデミックが重すぎると感じた人に、協力ゲームの入口としておすすめできます。
この学びを探求できるおすすめ書籍3選
『恐れのない組織』エイミー・C・エドモンドソン
「心理的安全性」という言葉を世に広めたハーバード大学の研究者による本です。チームの中で「これ、おかしくないですか」と言えるかどうかが、成果を分ける。パンデミックのクォーターバック問題は、まさに心理的安全性が失われた状態です。1人が仕切り、他の人が黙る。ゲームで体験したその空気の正体を、本書が言葉にしてくれます。
『失敗の科学』マシュー・サイド
航空業界は事故のたびに徹底的に原因を調べて次に活かすのに、医療業界ではなぜ同じ失敗が繰り返されるのか。失敗から学べる組織と学べない組織の違いを、豊富な事例で描いた本です。パンデミックで負けたあとに「なぜ負けたか」を全員で話す時間は、本書の言う「失敗から学ぶ文化」の小さな実践にあたります。
『HIGH OUTPUT MANAGEMENT』アンドリュー・S・グローブ
インテル元CEOが、マネジャーの仕事を「チームのアウトプットを最大にすること」と定義した本です。パンデミックで1人が全員を指示すると、その人のアウトプットは上がっても、チームのアウトプットは下がります。この構造を、グローブは「テコ作用」という言葉で説明しています。ゲームで感じた違和感を、経営の言葉で確認したい方に。
基本情報
正式名称:パンデミック:新たなる試練(Pandemic)
原版発売年:2008年(Z-Man Games)
日本語版販売元:ホビージャパン
デザイナー:マット・リーコック(Matt Leacock)
プレイ人数:2〜4人
プレイ時間:約45分
対象年齢:8歳以上
受賞歴:ドイツ年間ゲーム大賞ノミネート(2009年)、Games Magazine ファミリーゲーム・オブ・ザ・イヤー(2008年)
才能で試合には勝てる。だが優勝をもたらすのは、チームワークと知性だ。
マイケル・ジョーダン











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