
同窓会で「昔は何になりたかったっけ」という話になったとき、少し困った顔をしてしまう。20代のころは平気で口にできた言葉が、いつのまにか気恥ずかしいものに変わっている。
夢を持っていないわけではありません。ただ、声に出すと甘く聞こえる気がして、飲み込む癖がついただけです。
そんな大人にこそ届いてほしい言葉があります。
・昔あった「やりたいこと」を、最近思い出せていない人
・夢を語ることが、少し恥ずかしくなってしまった人
・自分に自信が持てないまま、何かを始めようとしている人
言葉の意味
こう伝えられている言葉があります。
夢を「叶える人」ではなく、「その美しさを信じる人」と言っているところが独特です。
叶うかどうかは、時代にも運にも左右されます。自分では決められません。けれど、その夢を美しいと思えるかどうかは、自分の中だけで決まります。誰の許可も要りません。
まわりに笑われても、実現の見込みが立たなくても、自分だけはそれを美しいと思っている。その状態を保てる人にしか、そこへ向かう時間は使えない。だから未来はその人のものになる。そういう理屈です。

この言葉について、正直に書いておきたいこと
実はこの一節、エレノア・ルーズベルトが語ったという確かな記録が見つかっていません。
引用の出典を追う研究者たちが調べたところ、彼女の著作にも講演にも該当箇所がありませんでした。最も古い記録は1978年、カナダの地方紙に載った求人広告です。そこでは「the courage to believe(信じる勇気を持つ)」という表現が入っていました。エレノアの名前が結びついたのは1986年ごろ、彼女が亡くなってから20年以上あとのことです。
つまり、彼女の言葉ではない可能性が高い。当ブログは出典のはっきりしたものだけを扱う方針なので、ここは伏せずに書いておきます。
ただ、この言葉が彼女の名前で広まったことには理由があると思っています。その理由は、彼女の人生を知ると分かります。
言葉の背景
エレノア・ルーズベルト(1884〜1962)は、アメリカ大統領フランクリン・ルーズベルトの妻です。
子ども時代は、とても恵まれたとは言えないものでした。8歳で母を、10歳で父を亡くしています。美人だった母からは容姿のことでたびたび比べられ、本人も自分を内気で不器用な子どもだと思っていました。写真に残る少女時代の彼女は、いつも少し肩をすぼめています。
転機は1921年でした。夫がポリオに倒れ、歩けなくなります。政治生命は終わったと周囲が見るなか、彼女は夫の代わりに人前に立ちはじめました。人前で話すのが苦手だった女性が、です。
ファーストレディになってからの行動は、当時としては前例がありませんでした。女性記者だけを集めた記者会見を開き、新聞にコラムを連載し、人種隔離が当たり前だった時代に公民権運動を支持しています。批判は当然のように浴びました。
そして夫の死後、彼女は国連のアメリカ代表となります。1948年に採択された世界人権宣言の起草を主導したのが、この人です。すべての人間は生まれながらに自由で平等である、と書かれたあの文書は、内気だった少女が最後にたどり着いた場所でした。
夢の美しさを信じ抜いた人、という一文が彼女の名前で流通したのは、たぶん偶然ではありません。
現代の私たちへの学び
彼女が確かに書き残した言葉のほうを紹介します。晩年の著書『You Learn by Living(生きながら学ぶ)』の一節です。
こちらは出典がはっきりしています。そして、内容もずっと厳しい。
夢の美しさを信じるというのは、うっとりすることではありません。人前で話すのが怖い人が、人前に立つ。批判が来ると分かっている立場で、意見を言う。彼女がやったのは、そういう地味で怖い選択の積み重ねでした。
私たちが夢を語らなくなるのは、たぶん現実を知ったからではなく、笑われるのが嫌になったからです。「まだそんなこと言ってるの」と言われるより、最初から言わないほうが安全に決まっています。
でも、他人にとって価値があるかどうかと、自分にとって美しいかどうかは別の話です。前者は他人が決めますが、後者は自分にしか決められません。そこを混同したときに、夢は消えます。

音楽で味わう
この言葉を、私が運営するYouTubeチャンネル「Wisdom in Music」で「夢の美しさを信じて」という一曲にしました。
彼女の生涯をなぞって、星空が夜明けに変わっていく情景を思い描きながら作っています。醜いアヒルの子と呼ばれた少女が、声を持たない人たちの希望になるまでの話です。
歌詞
鏡に映る わたしは
うつむいてばかりの 醜いアヒルの子
誰にも 言えない夢を
そっと 胸の奥に 隠してた
笑われても いいの
この胸の あかりは
誰のものでもない
わたしだけの 宝物
夢の 美しさを 信じて
うつむく顔を 上げて
未来は いつだって
信じ続けた人の手に
夢を 諦めないで
その輝きは 本物
胸を張って 歩いていこう
明日は きっと わたしのもの
世界が 背を向けても
夢を 笑い飛ばしても
わたしは 手を伸ばす
うつむく 誰かの 隣で
ひとりじゃ ないよ
同じ夢 見る人が
どこかで きっと 今日も
同じ空 見上げてる
夢の 美しさを 信じて
うつむく顔を 上げて
未来は いつだって
信じ続けた人の手に
夢を 諦めないで
その輝きは 本物
胸を張って 歩いていこう
明日は きっと わたしのもの
醜いアヒルの子は
いつか 翼を広げる
信じた 夢の数だけ
未来は 美しくなる
あなたの その夢を
どうか 手放さないで
世界は あなたを 待っている
夢の 美しさを 信じて
涙の 先の 光へ
未来は いつだって
信じ続けた人の手に
夢を 諦めないで
その輝きは 本物
胸を張って 歩いていこう
明日は きっと わたしたちのもの
信じて…
夢の 美しさを…
この言葉をもっと深く知る本
『エレノア・ルーズベルト』伝記
内気な少女が世界人権宣言にたどり着くまでを、通して読める一冊です。児童向けに書かれたものは彼女の生涯を一気につかめるので、最初の入り口に向いています。
読んでいて印象に残るのは、彼女が最後まで社交的な人にはならなかったことです。人前が苦手なまま、それでも立ち続けた。無理に性格を変えなくても人は動けるのだと分かります。
『アルケミスト 夢を旅した少年』パウロ・コエーリョ
羊飼いの少年が、夢で見た宝物を探しにピラミッドを目指す物語です。世界中で読まれてきた作品で、日本語版も長く売れ続けています。
「夢の美しさを信じる」という状態を、説明ではなく物語で味わえるのがこの本の強みです。読み終えたあと、少年が最後に何を見つけたかについて、しばらく考えることになります。2時間ほどで読めます。
『マインドセット「やればできる!」の研究』キャロル・S・ドゥエック
スタンフォード大学の心理学者が、20年以上の研究をまとめた本です。人の能力は固定されているという思い込みが、どれほど挑戦を止めているかを、実験データで示していきます。
エレノアの「できないと思っていることをやりなさい」を、精神論ではなく科学の側から支えてくれる一冊です。自分に無理だと決めつける癖がある方には、特に効きます。
もう一度、この言葉を
未来は、自分の夢の美しさを信じる人のものである。
(エレノア・ルーズベルトの言葉として知られる)
誰が最初に言ったのかは、結局わかりませんでした。それでも、この言葉が百年近く前を生きた一人の女性の名前とともに残ったことには、意味があると思っています。
あなたが最近、口に出さないまましまい込んでいることは何でしょうか。それが世の中の役に立つかどうかは、いったん脇に置いてかまいません。自分がそれを美しいと思えているか。決められるのは、そこだけです。





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