トレーラー紹介
レビュー
*原則ネタバレを含まないようにレビューしていますが、ストーリーの流れや一部分の内容、撮影手法などへの言及を含むことがありますので、情報を入れずに観たいという方は、鑑賞後にお読みください。
どこかしらのユーチューバーがランキング形式で上位で紹介していたこの映画。邦題も原題そのままで、なんとなく面白味のなさそうな映画ではあるが意外とそうでもなかった。
印象としては2つ。「トム・ハンクスはイケオジ」ということ、「使われている音楽がとても心地よい」ということ。
『フォレスト・ガンプ』や『グリーンマイル』『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』『ターミナル』など、トム・ハンクスの映画は2000年代までよく観ていたけれど、久しぶりに観るとますますかっこよさが増し、ストーリーにも惹き込まれていく。音楽も「これ誰の何という曲だろう?」と思うほどシーンとマッチしており、穏やかな気持ちになります。
車の中(ソーニャとの回想)シーン(42分頃)
ソーニャのお墓参り〜ベッドの上の猫を見つけるシーン(61分頃)
バスが事故に遭うシーン(89分頃)
オットーが新車に乗り込むシーン(113分頃)
サントラもあります。入っていない曲もありますが。
さて、ストーリーとしては、仕事をなくした一人の堅物男オットーが、孤独を抱え自殺しようとすることから始まりますが、だんだんと近隣との関わりのなかで人生を考えていく老後の生き方を考えさせられるものです。彼の周りの人たちの多くは陽気でオットーとは真逆な性格。特に近所に越してきたメキシコ人のマリソルは、その関わりの中でオットーの人生に大きく影響を与えていく。
オットーが死にたいと思っていることを知らないマリソルの関わり方は、お節介とも言えるほどのもの。しかし、そのしつこいほどの関わり方が過去の辛さから人を救い出し助けることがある。時にはぶつかり合うことがあっても周りの人たちと支えあって生きていくことの喜びや楽しさを感じられる映画です。
映画の背景を読む
(1)アメリカには定年制度があるか?
アメリカでは1967年に成立した「雇用における年齢差別禁止法」により、定年制は禁じられています(一部、公共交通機関業務や警察官、消防士は許容されています)。会社が定年を決めることができないということは、個人の意思でリタイアの年齢を決めるということ。現在その平均年齢は66歳です。
アメリカの65歳以上人口が2050年には22%になるとされ、2023年アメリカ政府の統計当局は、米国人口が2080年に3億7000万人に達するのをピークに減少に転じるとされる現実的な予測を初めて発表しました。
(2)サルサとは?
近所挨拶の時にオットーがマリソルから受け取った料理。サルサとはスペイン語で「ソース」一般を意味する語です。映画ではマリソルがチキン料理と言っていましたが、オットーがそれを食すシーンでの見た目はメキシカンライスっぽいですね。
(3)セムラとは?
セムラ(Semla)とはスウェーデンのケーキ。一瞬マリトッツォ?と思いますが味は大きく異なります。少しずっしりしたパンにカルモダンが練り込まれており、アーモンドペーストと生クリームが挟まっています。コーヒーとの相性も抜群。ちなみにカルダモンとは熱帯地域、特にスリランカ、インド、マレー半島などで栽培される香り高いハーブのスパイスでその独特な風味と香りから「スパイスの女王」とも呼ばれます。
(4)撮影の舞台はどこ?
『オットーという男』の撮影場所はアメリカペンシルバニア州のピッツバーグ市です。
この映画を観て学べること
この映画は、年齢や境遇に関わらず、人は変わることができ、新しい関係を築くことができることを優しく、そして力強く伝えてくれる作品です。特に現代社会の孤独や分断に悩む人々にとって、希望と勇気を与えてくれるメッセージが込められています。
隣人のマリソルとその家族との出会いが、オットーの閉ざされた心を少しずつ開いていきます。どんなに孤独で頑なになっても、温かい人間関係が人を変える力を持っていることを教えてくれます。最初はマリソル一家を迷惑に思っていたオットーが、彼らとの交流を通して考えを改めていく過程が描かれます。先入観や偏見にとらわれず、相手を知ろうとすることの大切さを学べます。
そして生きる意味を見失いかけていたオットーが、他人を助けることや人とのつながりの中で新たな生きがいを見つけていく過程が描かれます。人生のどの段階でも、新しい目的や喜びを発見できることを示しています。
この映画を観た後に読みたい本
高齢者・老年期の心理に関する書籍
『超高齢社会の基礎知識』(鈴木隆雄著)は、高齢者を取り巻く現代的課題を理解できます。
悲嘆・喪失からの回復に関する書籍
『死別の悲しみに向き合う』(坂口幸弘著)は大切な人を失った悲しみとその回復過程について専門的に分析されています。
コミュニティ・近隣関係に関する書籍
『となりのイスラム』(内藤正典著)では、異文化との共生について具体的な事例を通して考察されています。
『限界集落と地域再生』(大野晃著)は、地域コミュニティの重要性について書かれています。
社会的孤立・つながりに関する書籍
『無縁社会』(NHK「無縁社会プロジェクト」取材班著)では、現代日本の孤立問題について詳しく分析されています。
『つながりの作法』(綾屋紗月・熊谷晋一郎著)は、人とのつながり方について実践的に考察しています。
多様性・異文化理解に関する書籍
『多文化共生の社会への条件』(宮島喬著)では、異なる文化背景を持つ人々との共生について学術的に分析されています。『外国人労働者受け入れと日本社会』(上林千恵子著)も参考になります。
人生の意味・生きがいに関する書籍
『生きがいについて』(神谷美恵子著)は、人生の意味を考える古典的名著です。
偏見・ステレオタイプに関する書籍
『偏見や差別はなぜ起こる?』(北村英哉著)では、人間の認知バイアスについて心理学的に解説されています。『ステレオタイプの科学』(クロード・スティール著)も同様のテーマを扱っています。
移民・外国人住民に関する書籍
『外国人の子ども白書』(荒牧重人他編著)では、異文化の人々との共生の実践例を学べます。
基本情報
原題:A Man Called Otto
ジャンル:ヒューマン・コメディ
公開:2023年
時間:2時間6分
監督:マーク・フォースター
出演:トム・ハンクス
興行収入:$113,117,059
この映画はフレドリック・バックマンの小説『幸せなひとりぼっち』を原作とした2015年のスウェーデン映画『幸せなひとりぼっち』のハリウッドリメイクです。
愛すること、忘れること、そして許すことは人生の三つの試練
スウェーデンのことわざ
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