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第15回【偉人の言葉】「同じ星を見て」|サン=テグジュペリに学ぶ、恋人の話ではなかった「愛」の一文

【偉人の言葉】「同じ星を見て」 偉人の言葉から学ぼう
もんとり
もんとり

結婚式のスピーチで、この言葉を聞いたことがある人は多いと思います。「愛は見つめ合うことではなく、同じ方向を見ること」。新郎新婦に向けて読み上げられて、会場が静かにうなずく。あの場面によく似合う言葉です。

 

ところが原文を開くと、この一文は恋人のことを書いていません。

 

出てくるのは、砂漠に不時着した友人と、アンデスの雪山を三日間歩き続けた友人の話です。

こんな人に読んでほしい

・長く続いている関係と、途中で切れた関係の違いが、うまく言葉にできない人

・恋人や夫婦の間で「気持ちが伝わらない」と感じることが増えてきた人

・チームの雰囲気は悪くないのに、会議がどこか息苦しいと思っている人

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言葉の意味

愛は見つめ合うことではなく、同じ方向を見ること

サン=テグジュペリが1939年に発表した『人間の土地』の一節です。原文はこうなっています。

Aimer, ce n’est point nous regarder l’un l’autre, mais regarder ensemble dans la même direction.

日本語では「愛するとは」で始まる訳が広く知られていますが、この記事では意味を崩さない範囲で言い換えています。

見落とされがちなのは、この一文の前半です。原文はもっと長くて、こう始まります。

自分たちの外にある共通の目標で兄弟と結ばれたとき、そのときはじめて私たちは息をする。

「同じ方向を見る」の前に、「自分たちの外にある目標」という条件がついています。そして、その目標に結ばれてはじめて「息をする」と書いている。愛の定義というより、人が生きた心地を取り戻す条件を書いた文です。

【偉人の言葉】「同じ星を見て」01

この言葉について、書いておきたいこと

この一文が置かれているのは、『人間の土地』の第二章「僚友」です。

書かれているのは、郵便飛行のパイロット仲間のこと。サハラ砂漠に不時着して砂の中を歩いた同僚、アンデス山脈に墜落して零下の雪山を三日三晩歩いて戻ってきた同僚。命がけの仕事を同じ方向に向かって続けた人たちのことを書いた章に、この言葉はあります。

つまり、この一文が最初に指していたのは、恋人ではなく仲間です。

だからといって恋人に当てはまらないわけではありません。むしろ逆で、仲間について書かれたからこそ、恋人にも、家族にも、仕事の相手にも使えます。関係の種類を問わず、人と人が長く一緒にいられる条件を言い当てているからです。

【偉人の言葉】「同じ星を見て」02

言葉の背景

アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリは1900年、フランスのリヨンに生まれました。作家として知られていますが、本業は飛行機乗りです。

1920年代、ヨーロッパとアフリカ、南米を結ぶ郵便飛行の会社に入り、サハラ砂漠の中継基地の責任者を務めました。当時の飛行機は無線も心もとなく、砂漠や山に不時着すれば、自力で歩いて戻るしかありません。『人間の土地』に出てくる仲間たちは、実際にそうやって生きて帰ってきた人たちです。彼自身も1935年にリビア砂漠で墜落し、水も食料もほとんどないまま数日間歩いて救出されています。

『人間の土地』はその経験をもとに1939年に出版され、フランスで最も権威ある文学賞のひとつを受けました。『星の王子さま』はその四年後、1943年の作品です。

1944年、偵察飛行のため地中海の上空に飛び立ったまま、帰ってきませんでした。44歳でした。

つまり「同じ方向を見る」と書いた人は、文字どおり、同じ方向へ命がけで飛んでいた人です。

【偉人の言葉】「同じ星を見て」03

現代の私たちへの学び

この言葉でいちばん効くのは「同じ方向」の部分ではなく、その前にある「自分たちの外にある目標」だと思います。

関係そのものを目標にすると、息が詰まります。

たとえば夫婦で「仲良くすること」だけが目標になると、些細なズレがすべて重大事に見えてきます。チームで「雰囲気を良くすること」が目的になると、意見を言うたびに空気を読むようになり、会議が息苦しくなる。相手を見つめすぎると、相手の表情ひとつで自分の調子が決まってしまいます。

サン=テグジュペリは、そこに目標を置くなと言っています。二人の外に、見上げるものを置け、と。

外に目標があると、意見が割れても平気です。どちらも同じ場所を目指しているのが分かっているからです。逆に、向いている方向がずれた瞬間に、それまで仲の良かった関係があっけなく終わることもあります。仲が悪くなったのではなく、見ているものが変わっただけ、という別れは意外と多いのではないでしょうか。

ひとつ、確かめてみると分かりやすい問いがあります。

その相手と、最近いちばん長く話した話題は何だったか。お互いのことだったか、それとも二人の外にある何かだったか。

後者の時間が長い関係は、たぶん続きます。

【偉人の言葉】「同じ星を見て」04

音楽で味わう

この言葉を曲にするとき、あえて恋人の二人にしました。

原文は仲間の話ですが、この言葉がいちばん多くの人に届いてきたのは、やはり恋の場面だからです。誰にでも「見つめ合っていた頃」と「同じ方を向くようになった頃」の両方があります。曲では、その変わり目を歌っています。

「同じ方向」を「同じ星」に置き換えたのには理由があります。サン=テグジュペリはパイロットです。当時の夜間飛行は、星を見て自分の位置を知りました。星は目的地ではなく、迷ったときに帰る場所を教えてくれるもの。曲の後半に「道に迷う夜は空を見上げよう」という一節があるのは、そのつもりで書いています。

『星の王子さま』にちなんだところもあります。橋渡しの部分の「大切なものは目には見えなくても」は、あの本のいちばん有名な言葉を、自分の言葉で言い換えたものです。

曲は恋人の二人の話として聴いてもらって構いません。ただ聴き終わったあとで、原文がもっと広い相手のことを書いていたと知ると、「同じ星」が指すものが少し増えると思います。

歌詞

出会った頃は 君の瞳の中だけ
見つめ合うことが 愛だと思ってた
甘い言葉も 数えきれない約束も
ふたりの夜を まぶしく照らしてた

でも本当の愛は それだけじゃないと
同じ星空を 見上げた日に気づいた

見つめ合うより 同じ方を向いて
君と並んで 同じ星を見ていたい
広い夜空に ひとつ光る場所
この手をつないで あそこを目指そう
愛は ふたりで 同じ星を見ること

喜びの日も うまくいかない夜も
肩を並べて 同じ空を選んだ
振り返るより 遠くを指さして
「あの星へ行こう」と 君が笑うんだ

顔を見なくても 心はわかる
同じ一番星を 追いかけてるから

見つめ合うより 同じ方を向いて
君と並んで 同じ星を見ていたい
広い夜空に ひとつ光る場所
この手をつないで あそこを目指そう
愛は ふたりで 同じ星を見ること

大切なものは 目には見えなくても
君の隣で 同じ夢を描ける
道に迷う夜は 空を見上げよう
同じ星さえ あれば 帰れるから

見つめ合うより 同じ方を向いて
これからもずっと 隣を歩こう
夜明けが来ても 心にあの星を
ふたつの影が ひとつの道になる
愛は ふたりで 同じ星を見ること
ずっと 同じ星を 見ていよう

この言葉をもっと深く知る本

『人間の土地』サン=テグジュペリ

この言葉の出典です。名言だけを知っている人ほど、読むと印象が変わると思います。砂漠、山、夜間飛行。仲間が生きて帰ってくる場面を読んだあとで「同じ方向を見る」に戻ると、言葉の重さがまったく違って感じられます。

『星の王子さま』サン=テグジュペリ

同じ人が四年後に書いた物語です。子ども向けに見えますが、「大切なものは目に見えない」「きみがバラのために使った時間が、きみのバラを大切なものにした」など、『人間の土地』と地続きの考えがやさしい言葉で書かれています。曲の橋渡し部分は、この本への小さな敬意です。

この本はAudibleでも聴けます。通勤・家事の「ながら時間」に読書を取り入れたい方は、まず無料体験から始めてみてください。 AmazonのオーディオブックAudible

『愛するということ』エーリッヒ・フロム

愛は感情ではなく、身につけるものだと説いた本です。サン=テグジュペリが「同じ方向を見る」と書いたことを、心理学者が別の角度から掘り下げています。少し硬い本ですが、「見つめ合う」だけの関係がなぜ疲れるのかが理屈で分かります。

もう一度、この言葉を

愛は見つめ合うことではなく、同じ方向を見ること
——サン=テグジュペリ

読む前は、結婚式のきれいな言葉に見えていたかもしれません。

それは間違っていません。ただその手前に、砂漠を歩いて戻ってきた仲間の話があり、「自分たちの外にある目標」という条件がありました。

見つめ合う相手がいなくても、この言葉は使えます。同じ星を見ている相手がいれば、それで足ります。

あなたがいま、同じ星を見ていると思える相手は誰ですか。


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