
プレゼン資料を作っていて、気づけば一時間ずっとフォントと余白をいじっていました。中身は最初の三十分でだいたい決まっていたのに、そこから先はずっと「ちゃんとして見える」ための作業です。
出来上がったものは、たしかに整っている。でも読み返すと、自分でも何を言いたかったのかが少しぼやけている。
こういうとき、二千年以上前の中国に、身も蓋もないことを言った人がいます。
・資料や投稿を「ちゃんとして見せる」ことに時間を使いすぎている人
・完璧に準備しないと動き出せない人
・隙のない人を見て、なぜか近づきにくいと感じたことのある人
言葉の意味
(たいこうは せつなるが ごとし)
本当に上手いものは、下手に見える。
『老子』第四十五章の一節です。同じ章には、こうも書かれています。
(たいせいは かくるが ごときも、その ようは やぶれず)
本当に完成したものは欠けて見えるけれど、その働きは尽きない。
この言葉について、書いておきたいこと
この言葉はよく「完璧じゃなくていい」という励ましとして紹介されます。結論としては、それで間違っていません。ただ、そこに行き着く道が二つあります。
ひとつは「ダメでも許されるよ」という許可。
もうひとつは「本物は、もともと欠けて見えるものだ」という事実。
老子が書いているのは後者です。許可は誰かからもらうものなので、くれる人がいないと成り立ちません。事実のほうは、誰の許可も要らない。落ち込んだ日に自分ひとりで立てるのは、たぶん後者です。

言葉の背景
老子は生没年がはっきりしません。実在を疑う説もあります。残っているのは『老子』(道徳経)という五千字ほどの短い書物だけです。
生きたとされるのは春秋戦国時代。国が争い合っていた時代で、「強くあれ」「こうあるべきだ」が正しいとされていました。同じころの孔子は、礼を尽くし、秩序を守り、人としてどうあるべきかを説いています。
その真横で、老子は逆を言いました。力むな、と。
水は形を持たず、低いところへ流れ、何とも争わない。それなのに岩を削る。これが老子の考える強さでした。「無為自然」という言葉は、何もしないことではなく、余計な力を加えないという意味です。
乱世のまっただ中で「力むな」と言うのは、当時としてはかなり奇妙な主張だったはずです。
現代の私たちへの学び
仕事でいちばん信用している人を思い浮かべてみてください。
私の場合、その人は説明があまり上手くありません。肩書きも派手ではない。ただ、任せたことは終わっている。連絡は素っ気ないけれど、必要なことは全部書いてある。
逆に、資料もプレゼンも完璧なのに、なぜか任せる気にならない人もいます。整いすぎていると、どこが本音なのか分からなくなるからかもしれません。
老子の言うとおりだとすると、こうなります。上手い人は、上手く見せる必要がない。 だから力んでいないし、結果として少し不器用に見える。
そしてもうひとつ。整えることに使った時間は、そのぶん中身から引かれています。
一度だけ、分けて計ってみると分かりやすいです。今日の作業のうち、「中身を作った時間」と「ちゃんとして見せた時間」がそれぞれ何分だったか。後者が前者を超えていたら、それは老子が笑うところです。
欠けているように見えるものの中に、まだ壊れていないものがある。そういう目で自分の仕事を見ると、削っていい部分が見えてきます。

音楽で味わう
この言葉を曲にするとき、ひとつだけ決めていたことがあります。
荘厳な曲にはしない。
「大巧若拙」を格調高いオーケストラで歌ってしまったら、その時点で言葉と矛盾します。力を抜けと言っている歌が、いちばん力んでいることになる。なので、思いきり力の抜けたコミカルなファンクにしました。目覚まし三回、靴下が片方ない、財布は月末でスッカラカン。二千年前の哲学を、まったく格好つけずに歌っています。

タイトルは「ポンコツ上等!」。老子が聞いても、たぶん怒らないと思います。
曲のほうは、はっきり「完璧じゃなくていい」と歌っています。落ち込んでいる日に必要なのは、たぶんそちらです。理屈より先に、まず肩の力が抜けたほうがいい。
この記事はその裏側を書きました。なぜ肩の力を抜いていいのか。老子の答えは「本物はもともと欠けて見えるから」です。曲で軽くなって、あとから理由がついてくる。そういう順番でいいと思っています。
歌詞
ウォウ ウォウ ウォウォッ!
せーので ハイ!
目覚まし3回 二度寝のプロ
歯磨きしながら 靴下ロスト
冷蔵庫オープン なんもないボーン
とりあえず生きてる それでオッケーソー
ちゃんとなんて できなくていい
みんな実は いっぱいいっぱい
肩の力を ストンと抜いて
せーので笑お ウェイ!
ポンコツ上等 なんとかなるさ ウォウウォ!
ドジっても てへぺろ ウォウウォ!
完璧な人 どこにもいないよ
今日を生きてる キミが偉い!
ラパッパ パッパ ウォウウォ!
ダンダン ドンマイ ウォウウォ!
財布スッカラカン 月末マジック
やる気スイッチ どっか旅に出た
SNS見て ため息ホロロ
比べたって しょうがないっしょ
できない日が あってもいい
泣いた夜にも ちゃんと意味がある
ぐちゃぐちゃのまま 抱きしめて
せーので笑お ウェイ!
ポンコツ上等 なんとかなるさ ウォウウォ!
ドジっても てへぺろ ウォウウォ!
完璧な人 どこにもいないよ
今日を生きてる キミが偉い!
ラパッパ パッパ ウォウウォ!
ダンダン ドンマイ ウォウウォ!
ほんとはね みんな不安で
ほんとはね みんな手探りで
それでも朝が来て ごはん食べて
なんだかんだ ここまで来たじゃん
泣き虫でも ねぼすけでも
そのまんまの キミでいいよ
ウォウ ウォウ ウォウォッ! もっと声出して!
ウォウ ウォウ ウォウォッ! せーので ハイ!
せーので ハイ!
ポンコツ上等 なんとかなるさ ウォウウォ!
ころんでも がははっ ウォウウォ!
完璧じゃなくて 全然いいよ
生きてるだけで 花マルだ!
ラパッパ パッパ ウォウウォ!
ダンダン ドンマイ ウォウウォ!
人生ポンコツ、ポンコツ ウォウウォ!!
なんとかなるさ ウォウウォ…
今日もおつかれ! ハイ!
この言葉をもっと深く知る本
『老子』蜂屋邦夫 訳注
原典に当たりたい人へ。五千字ほどの短い書物なので、通しで読んでもそれほど時間はかかりません。訳注が丁寧で、第四十五章の前後を読むと「大巧若拙」が単独の格言ではなく、水や器の話とつながっていることが分かります。
『本当の勇気は「弱さ」を認めること』ブレネー・ブラウン
完璧に見せようとする心の仕組みを、研究者が正面から扱った本です。老子が二千年前に一行で言ったことを、現代の心理学の言葉で解きほぐしていきます。読み口はやや重めですが、思い当たる記述が多いはずです。
『反応しない練習』草薙龍瞬
「力まない」を実践に落とす一冊。仏教がもとになっていますが、書いてあることは老子とかなり近い場所にあります。比べて読むと、東洋の考え方が同じ方向を向いていることが見えてきます。
もう一度、この言葉を
——老子
読む前は「完璧じゃなくていい」という励ましに見えていたかもしれません。それは合っています。ただ、その下にもう一段、硬いものが敷いてあります。本物はもともと欠けて見える。
励ましは、元気がないと受け取れません。でもこちらは、元気がなくても立っています。
今日いちばん時間をかけたのは、中身のほうでしたか。





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