
一つのチームの協力関係を良好に保ちたいとは誰もが思うことでしょう。チームとは決して職場関係に限らず、夫婦関係、恋人関係、親子関係、友達関係なども言わばチームです。一緒の空間でいくつものタスクをそのチームでこなしながら、チームの関係を維持するために、あなたはどれだけの努力をしているでしょうか?あなたが相手と比べて、あなたがこなしているのは何パーセントですか?
・人を動かす立場の人
・誰かとの関係維持に課題がある人
・自分の努力が認められないと感じている人
(推奨人数:2人以上)
①同じチーム内でペアを作る。
②相手のために自分がこなしている努力をパーセンテージ化してみる。
③「相手がしてくれたことリスト」を作る。
④どういう気付きがあったかお互いに話をしてみる。
1.ポイント:責任のバイアスとは
リンクトインの設立者リード・ホフマンは「悪気がなくても、人は自分の貢献を過大評価し、他人の貢献を過小評価する」と言っています。今回の「やってみよう!」における努力のパーセンテージ化では、往々にして2人の合計値は100%を超えます。このような、お互いに自分の貢献度合いを過大評価すること、相手の努力に対して自分の貢献を高く見積もることを「責任のバイアス」と呼びます。
では、なぜこういうことが起きるのでしょうか?
一つの要因は「受けとる情報量の差」があります。人は「相手がしてくれたこと」よりも、自分が「してあげたこと」に関する情報をより多く手に入れます。自分がした努力はすべて分かっているけれど、相手の努力については一部を見るだけ。分かっている情報量の多い自分のことが、相手よりも高い位置にいると感じるのは当然でしょう。
もう一つの要因は「自分自身をよく見せたい」という思いがあります。真っ先に自分の利益を優先させる人が犯しやすい誤りです。
このような「責任のバイアス」は、協力関係が失敗する大きな原因になります。そうならないように、お互いの貢献度を正しく判断するカギはないのでしょうか。それは、「相手がした貢献に注目すること」が助けになります。そのために、まず相手がしてくれたことをリストにしてみましょう、というのが今回の「やってみよう!」です。
2.必要な準備
なし
・「相手がしてくれたことリスト」を書く紙
・ペン
3.参考例:「相手がしてくれたことリスト」の作り方
上司部下の関係性であれば、部下は上司からどのくらい助けられているか、上司は部下がいることでどれくらい助かっているか、目に見えるものだけでなく、自分がそばにいない時の景色も想像してみましょう。仮にその人がいなかったらあなた自身がしなくてはいけないことを思い浮かべると、想像は容易かもしれません。また、第三者でその人のことをよく知る人から、見えない所の話を聞くのも有効です。
4.まとめ:自分の失敗より人の失敗を大目に見る
どのような立場であれ、まず「自分はこんなにやっているのに!」と人間誰しもが思っていることだと認識しましょう。人との協力関係を良好に維持していくために心がけるべきは、「うまくいかないときは自分が責任を負い、うまくいっているときは、すぐにほかの人を褒めること」なのです。まずは相手の業績を認めること。誰もが自分も貢献できると思えるような雰囲気をあなた自身が作り出すことで、人はより学習意欲が高まり、より新しいことにチャレンジできるようになります。
「相手の立場になって考える」とはよく言いますが、いざ自分と比較したり、他者から評価されたりすると、そんな考慮の余地さえなくなります。だからこそ落ち着いて「相手がしてくれたことリスト」を見返し、相手にどう向き合えばよいかお互いが理解することが協力関係を維持し、チームとしての力を何倍にもすることでしょう。
この記事を探求できるおすすめ書籍5選
『GIVE & TAKE「与える人」こそ成功する時代』アダム・グラント
この記事の参考文献として挙げている書籍そのものです!ペンシルベニア大学ウォートン校の組織心理学者による世界的ベストセラーで、人を3つのタイプ(ギバー・テイカー・マッチャー)に分類し、長期的に成功するのはギバーであることを実証研究とともに解説しています。この記事で伝えている「責任のバイアス」という概念そのものを学術的に裏付ける内容が満載で、自分の貢献を過大評価し他人の貢献を過小評価してしまう心理メカニズムを深く理解できます。特に「うまくいかないときは自分が責任を負い、うまくいっているときはすぐにほかの人を褒めること」というこの記事のメッセージは、本書で紹介される成功するギバーの行動戦略と一致しています。相手の貢献に注目することの重要性を、様々な事例とデータで学べる必読書です。『チームワーキング ケースとデータで学ぶ「最強チーム」のつくり方』中原淳・田中聡
立教大学経営学部教授の中原淳氏による、チームワークの本質を科学的に解き明かした実践書です。この記事では「一つのチームの協力関係を良好に保ちたいとは誰もが思う」という願望に言及していますが、この本ではチームワークという人類史上最大の難問に、ケースとデータという2つの武器で挑んでいます。特に「ゴール・ホールディング(目標を握り続ける)」「タスク・ワーキング(動きながら課題を探し続ける)」「フィードバッキング(相互にフィードバックし続ける)」という3つの行動原理は、この記事で紹介している「相手がしてくれたことリストを作る」というワークショップの理論的基盤を提供してくれます。高業績チームと低業績チームでどのように行動が異なるのかをデータで示しており、協力関係を維持するための具体的なヒントが満載です。『チームワークの心理学 エビデンスに基づいた実践へのヒント』マイケル・A・ウェスト
世界12カ国で翻訳されたロングセラーで、チームワークの心理学的側面を実証研究に基づいて解説した名著です。この記事では「人は自分の貢献を過大評価し、他人の貢献を過小評価する」というリード・ホフマンの言葉を引用していますが、この本ではなぜそのような認知バイアスが生まれるのかを心理学の観点から詳しく解説しています。特にチームの発展段階、リーダーシップ、コンフリクト対処など、この記事で伝えている「夫婦関係、恋人関係、親子関係、友達関係なども言わばチーム」という広い視点でのチームワークを理解するための理論的枠組みが学べます。チェックリストや実践的なツールも多数掲載されており、「相手の貢献に注目する」ことを習慣化するための具体的な方法が満載です。『あなたのチームは、機能してますか?』パトリック・レンシオーニ
業績不振にあえぐベンチャー企業を立て直す物語を通じて、チームが機能するために必要な5つの要素を学べるビジネス小説です。この記事では「協力関係が失敗する大きな原因」として責任のバイアスを取り上げていますが、この本では信頼の欠如、衝突への恐怖、責任感の不足、説明責任の回避、結果への無関心という5つの機能不全がチームを崩壊させることを物語形式で描いています。特に「信頼」がすべての土台となり、それがなければメンバーは自分の弱みを見せることができず、結果として協力関係が構築できないという洞察は、この記事で提案している「相手がしてくれたことリストを作る」ワークショップの重要性を物語の力で理解させてくれます。読みやすく実践的な内容です。『新版 チームワークの心理学: 持続可能性の高い集団づくりをめざして』山口裕幸
九州大学名誉教授によるチームワーク研究の決定版で、2024年に改訂された最新版です。この記事では「受けとる情報量の差」が責任のバイアスを生む要因として挙げていますが、この本では心理的安全性、組織コミュニケーション、チームワークの発達メカニズムなど、協力関係を科学的に理解するための最新の研究成果が網羅されています。特に「組織の中で率直に意見を述べ合うことのできる心理的安全性」は、この記事で伝えている「自分がそばにいない時の景色も想像してみましょう」「第三者からその人のことをよく知る人から見えない所の話を聞く」という提案と深く繋がります。チームワークを可視化する測定手法や、優れたチームワークを育む具体的な方法が学べる実践的な一冊です。参考文献
アダム・グラント『GIVE & TAKE「与える人」こそ成功する時代』三笠書房、2014年
全世界は、一つのとるに足りない例外を除いて、他者で成り立っていることを忘れてはならない。
ジョン・アンドルー・ホームズ(元アメリカ下院議員、上院議員)

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