第53回【失敗から学ぶ力を身につける】すべて失敗ありきで考えよう|レジリエンス向上術

失敗から学ぶ力を身につける
もんとり
もんとり

あなたにとって「失敗」とは何でしょうか?「失敗」と聞いてどういうイメージを持ちますか?失敗するのは怖い?失敗は絶対してはいけないこと?失敗は汚らわしく非難されるべきものでしょうか?今回は失敗に対するあなたのマインドセットを見直してみましょう。

こんな人に読んでほしい

・失敗するのが嫌な人
・すべてに完璧を求める人
・懲罰志向の組織にいる人

やってみよう!

①プロジェクトを始める前にメンバーで集まる。
②そのプロジェクトは大失敗したと仮定する。
③なぜ大失敗したのか全員が思いつく限り書き出す。
④プロジェクトの責任者から順に1つずつ発表する。
⑤全員が全てを出し終えるまで繰り返す。
⑥出し終えた後にメンバーの意識がどう変わったか話し合う。

今回はマシュー・サイド著『失敗の科学 失敗から学習する組織、学習できない組織』を参考にしていきます。

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1.ポイント:究極の失敗型アプローチ「事前検死」

何かプロジェクトを始めるにあたり「失敗ありき」として考えるためのツールのひとつに、著名な心理学者ゲイリー・クラインが提唱した「事前検死」があります。「事前検死」は、プロジェクトが終わった後ではなく、プロジェクトを始める前に検証を行います。あらかじめプロジェクトが失敗した状態を想定し、学びの環境を作る、まさに究極の「フェイルファスト」手法とも言えます。

「フェイルファスト」というのは「速く失敗せよ」という意味で、シリコンバレーのスタートアップ界隈ではよく用いられます。Googleを成功に導いた方法論の一つとしても知られています。

「失敗していないのに失敗を想定する場を作ること」で、チームメンバーはプロジェクトに否定的だと受け止められることを恐れず、懸念事項をオープンに話し合うことができます。

失敗から学ぶ力を身につける03

この「事前検死」は「失敗するかもしれない」と不安にするものではありません。「プロジェクトは失敗した」「目標は達成しなかった」という「すでに死んでいる」状態から始まり、検証を行っていきます。チームメンバーは失敗の理由をできるだけ書き出していく。そしてプロジェクトの責任者から順にひとりずつ発表し、理由がなくなるまでそれを行います。

この「事前検死」でチームメンバーの意識の持ち方が変わり、プロジェクトは強固なものになることでしょう。

2.必要な準備

事前準備

プロジェクトが始動する前に集まること

用意するもの

・仮の失敗の原因を書き出す紙
・ペン

3.参考例:データとフィードバックの環境作り

次の3つの質問に答えてみてください。

・あなたは判断を間違えることがありますか?
・自分が間違った方向に進んでいることを知る手段はありますか?
・客観的なデータを参照して、自分の判断の是非を問う機会はありますか?

これらの質問に「いいえ」が多ければ多いほど、あなたは学びの機会を失っています。どんなにやる気や熱意があったとしても問題はそこではなく、データやフィードバックを得ることができないその「やり方」にあります。

そのことはスポーツで考えると分かりやすい。スポーツでは、瞬時に明確なフィードバックを得られます。例えば、サッカーで自分に来たパスをうまくコントロールできなかったら、プレイヤーはそのたびに学びがあります。しかし、サッカーを習いたての子どもが大きなスタジアムの試合に出てもボールに触れる機会が少なくなるだけで、上達の速度は上がらない。つまり、ただスポーツをするのではなく、最も効果的なトレーニングができる環境作りを目指すことでスキルを高めることができるのです。

失敗から学ぶ力を身につける02

それは組織でも同じように、学びを生み出すには判断力を養える環境を作る必要があります。客観的なデータの蓄積があれば、具体的なフィードバックを得ることができる。有意義なフィードバックがあれば、組織が改善していく。だからこそ、間違い(失敗)を指摘してくれるような「信号」をシステムの中に取り入れていきましょう。

4.まとめ:失敗は学びの支えである

私たちの人間社会は複雑です。複雑すぎる社会では、物事を単純化する傾向にあります。しかし、人の行動を予測する一般理論がないように、私たちが成功に向かって歩んでいくために、進んで検証を繰り返していかなければなりません。状況が複雑になればなるほど、トップダウンではなく、ボトムアップで真実を見出す努力が必要になります。

長い歴史を遡っても「失敗」は汚らわしいものとして扱われてきました。今も多くの組織では失敗することに対し、原因を追求することなく誰の責任かに終始することがあるでしょう。非難やスケープゴートに躍起になる光景はあらゆる場面で見られます。

しかし、失敗は恥ずかしいことではありません。「正解」を出した者だけを褒めること、完璧ばかりを追い求めることは「一度も失敗せずに成功を手に入れることができる」という間違った認識を植え付けかねません。自分の考え方や行動が間違っていると指摘されることほど歓迎し、大きな進歩を遂げましょう。己の地位に固執して批判を拒絶する者に成長が訪れることはありません。

失敗から学ぶ力を身につける01

今日から「失敗は学習の支えになるものであること」を心に刻みましょう。

この記事を探求できるおすすめ書籍5選

『失敗の科学 失敗から学習する組織、学習できない組織』マシュー・サイド

この記事の参考文献として挙げている書籍そのものです!オックスフォード大学を首席で卒業した英タイムズ紙コラムニストによる、世界的ベストセラーです。この記事で紹介している「事前検死」という手法は、まさにこの本の核心部分で、心理学者ゲイリー・クラインが提唱した究極の失敗型アプローチです。特に医療業界と航空業界の対比を通じて、失敗を恥ずかしいものとして隠蔽する文化と、失敗から学ぶ文化の違いが鮮明に描かれています。航空業界では100万フライトに0.41回という驚異的な安全性を実現している一方、医療業界では年間40万人以上が回避できたはずの医療過誤で命を落としているという現実は、この記事で伝えている「失敗は学習の支えである」というメッセージの重要性を証明しています。22カ国で刊行され、2024年の羽田空港地上衝突事故以降さらに注目を集めている必読書です。

『失敗ゼロからの脱却 レジリエンスエンジニアリングのすすめ』芳賀繁

立教大学名誉教授による、失敗との新しい向き合い方を提案する実践書です。この記事では「失敗ありき」という考え方やフェイルファストの重要性を伝えていますが、この本では「事故を減らす」から「成功を増やす」へという発想のパラダイムシフトを提唱しています。特に「仕事をする目的は、よい製品を作ること、よいサービスを提供することであり、事故を起こさないこと、仕事で失敗をしないことではない」という視点は、この記事で伝えている「データやフィードバックを得ることができるやり方」の重要性と深く繋がります。レジリエンスエンジニアリングという最新の安全マネジメント手法を、豊富な実例とともに解説しており、この記事のワークショップを組織レベルで実践するための理論的基盤を提供してくれます。

『世界のエリートがIQ・学歴よりも重視! 「レジリエンス」の鍛え方』久世浩司

グローバル企業のエリートとともに働いた経験から、レジリエンス(精神的なたくましさ)の重要性を説いた一冊です。この記事では「失敗するのが嫌な人」「すべてに完璧を求める人」というターゲットを設定していますが、この本ではまさにそうした人々に向けて、失敗を恐れず立ち直る力を科学的に身につける7つの技術を紹介しています。特に「失敗に対する怖れ」が行動回避を生むメカニズムや、失敗を3つのカテゴリー(不注意による失敗、知識不足による失敗、意思決定の失敗)に分類して理解することは、この記事で提案している「事前検死」のワークショップをより効果的に実践するための心理的基盤になります。ロイヤル・ダッチ・シェル、IBM、ジョンソン・エンド・ジョンソンなどグローバル企業で導入されている実践的な内容です。

『間違い学:「ゼロリスク」と「レジリエンス」』松尾太加志

心理学者による、ヒューマンエラーの本質と対処法を解説した最新の入門書です。この記事では「失敗は恥ずかしいことではありません。正解を出した者だけを褒めること、完璧ばかりを追い求めることは間違った認識を植え付けかねません」と伝えていますが、この本ではDX時代におけるヒューマンエラーの新しい形態を分析し、ゼロリスクを追求する限界を明らかにしています。特に「エラーをした人は悪いのか?」という章では、この記事で引用しているカール・ポパーの「真の無知とは、学習の拒絶である」という言葉と深く繋がる内容が展開されています。後知恵バイアスや意味のない「気をつける」対策の問題点を指摘し、外的手がかりでヒューマンエラーに気づかせる方法など、実践的な対処法が満載です。

『失敗学のすすめ』畑村洋太郎

東京大学名誉教授で失敗学の第一人者による、失敗学の古典的名著です。この記事では「失敗は恥ずかしいことではありません。正解を出した者だけを褒めること、完璧ばかりを追い求めることは間違った認識を植え付けかねません」と伝えていますが、この本ではまさにその失敗に対する日本人の固定観念を覆す革新的な考え方を提示しています。失敗を知識に変え、創造性を生み出す源にすることの重要性を説き、失敗の10のパターン、失敗情報の伝え方・活かし方、失敗を立体的に考える思考法などが体系的に解説されています。この記事で紹介している「事前検死」というツールの理論的背景にもなっており、個人でも組織でも失敗から学ぶ文化を作るための実践的な知識が詰まった必読書です。

参考文献

マシュー・サイド『失敗の科学 失敗から学習する組織、学習できない組織』ディスカヴァー・トゥエンティワン、2016年

コトバのチカラ

真の無知とは、知識の欠如ではない。学習の拒絶である。
カール・ポパー(哲学者)


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